かつて機能していたシステムの永続性や汎用性に疑問が生じはじめている
かつて100人以上の正装したやくざに囲まれたことがある。
幹部は全員羽織袴、構成員は全員黒のダブルのスーツだった。
別に因縁をつけられていたわけではないが、
一歩間違えたら殺されかねないと思えるほど、
現場はものすごい緊張感に包まれていた。
それは10年ほど前のことで、
あるやくざ組織の組長の襲名披露の映像を収録していたのだ。
フリーのディレクターには、時にこのような仕事も舞い込んでくる。
やくざだって人生のイベントの記録は残したいし、
誰かがそれを引き受けるしかなかったのだ。
僕と任侠の世界との関りは、その一回きりである。
あ、最初に就職した会社は東映グループだったけど、
あそこは堅気の会社ですよ、念のため。
その時に招待されていたVIPの列席者の一人が、
最近逮捕された工藤会の野村悟さんだった。
なので僕はご本人にお会いしたことがある。
ものすごく怖かった。
何を言われたわけでもなかったのだが、
後に収録映像を編集していて、
式典の最中にカメラマンの携帯が鳴り、
この方がカメラに向かって「チッ」と舌打ちした映像が残っていて、
それを見て身体が震えた。
ちなみにこの時のVIP列席者の一人は、後に射殺されている。
僕はその後、工藤会が弾けたというニュースを見る度に、
「あの野村さんの工藤会か、さもありなん。」と思っていた。
特にこの一年は、その工藤会のお膝元、
北九州の若松で仕事をしていたし、
その間に若松の漁業長も射殺されたし、
ニュースをよりリアルに感じていた。
今回の福岡県警の頂上作戦で、
工藤会も大きなダメージを受けるだろう。
吉田磯吉から連綿と続く、北九州の伝統的暴力システムも、
ひとつの節目を迎えると思う。
ある意味21世紀が来たのだなと実感した。