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会社を辞めた話

これは7年前、2017年5月25日の日記

昨日会社を電撃退社しました。
どのくらい電撃だったかというと、
11時50分頃、僕の部署の統括の人に、
退社したいという意志を伝え、
その人の了解を得て、
そのまま昼休みに突入し、
弁当を食べてから
徒歩で会社の事務所に向かい、
社長に退社の意志を伝え、
昼休みの終わる13時には、
統括の許可をもらって家に帰りました。

細かい事情を説明すれば、
キリがないのですが、
ひとつだけ大きな原因をあげると、
一昨日の火曜日にゴミの回収をしている途中、
僕が助手として乗っていた回収車が、
狭い路地で通行人の目の不自由な方の杖と接触し、
その方が市役所に通報して、
回収車のドライバーが地区の担当を外され、
昨日の朝礼でその件について弁明と謝罪をしました。

僕も同乗していた相棒ということで、
連帯責任だという扱いを受けましたが、
僕には僕なりの言い分がありまして、
どういう言い分かといいますと、
ものすごく長い文章になるので、
それは割愛させていただきますが、
そんなことを延々と説明したところで、
それは言い訳にしかならないというのが、
社会のシステムであることは重々承知しているので、
納得いかない気持ちを抱えたまま仕事を続けるのは、
精神衛生上良くないことですので、
そのことが原因で大事件、大事故を引き起こす前に、
自衛のために電撃退社という強行策に出ました。

思えば3ヶ月ほど前、
会社の不心得者にクンロクを入れて、
そいつが逆上し、殴りかかってきて、
顔に青アザができましたが、
そいつに限らず会社には不心得者がいて、
ギリギリのラインで、
我慢するなら我慢できるし、
耐えられなければブチ切れるという、
本当にスレスレの状態で、
なんとか騙し騙しやってきました。

それが昨日はブチ切れる側にベクトルが振り切れて、
電撃退社ということとなったわけです。

今日からまた就職活動です。
しかし、人間万事塞翁が馬、
昔の中国にはなかなかできた人もいて、
素晴らしい格言も残されています。

そんな昨日の朝、耐え難いことがあり、
悔しくて眠れなくて、
4時頃には起きていました。

そのまま出勤時間の7時まですることがないので、
色々考えた末、レンタルしていた、
「ドラゴン・タトゥーの女」を
見ることにしました。

よくできた映画でした。
さすがデビット・フィンチャーと思いました。

やはり無理にテレビドラマを見て、その感覚に寄せて行くより、
僕にはこういう表現の方が
合っているなと思いました。

重要な登場人物のリスベットという女性が、
変態野郎に酷い犯され方をするのですが、
リスベットは黙って耐えるのではなく、
ある意味それ以上の仕返しをします。

この映画に影響されたのでしょうか、
僕はそのあと仕事に出て、
5時間後には会社を電撃退社しました。

そういう意味では
僕が「ドラゴン・タトゥーの女」に導かれる、
一連のストーリーには何か人知を超えた、
見えない世界の仕組みのようなものを感じます。

そして電撃退社して
早い時間に家に帰ってきた僕は、
DVDに特典映像として付いていた、
デビット・フィンチャー自身が、
映画を再生しながら映画について解説するという、
すごい映像を見ました。

映画の舞台はスウェーデンなのですが、
吹雪の中で登場人物が会話するというシーンで、
人物が会話するカットと、
そのそばにある建物のインサートカットは、
別の日に撮影されており、
カットによって雪の降り方が違うのですが、
「このカットはCGで雪を足して、
カットとカットがつながるように調整している」
とデビット・フィンチャーの説明が入ります。

別のシーンでは登場人物が、
ヘラジカのステーキを食べながら会話するのですが、
「このシーンでは様々にアングルを変えて、
何回も撮影しているので、(役者の)ダニエルは、
合計で14枚くらいステーキを食べてるよ」
と解説が入ります。

リドリー・スコットの「ブラックレイン」に、
松田優作が登場人物の首を
ナイフで切るというシーンがあるのですが、
そのシーンの撮影のリテイクのために、
血しぶきが飛び散る衣装が、
12セット用意されていて、
それを後に松田優作が桃井かおりに、
「ハリウッドすげえぜ、かおり、
首を切るシーンなんて衣装が12着用意されていて、
12回も切ることができるんだぜ」と、
ハリウッド映画の資本力に感心していた、
というインタビューを見たことがあるが、
これがハリウッド映画と日本映画の決定的な違いだと思う。

デビット・フィンチャーの解説を聞いていると、
いかに細部が細かく検討されて、
撮影の準備がなされているかがわかる。

問題のリスベットが犯されるシーンだが、
このシーンも一日かけて撮影された。
気が滅入るような残虐なシーンの撮影が、
一日中続くわけなのだが、
デビット・フィンチャーは
リスベット役のルーニー・マーラに、
特に指示はせず自由にリアクションさせた。

ルーニー・マーラは最初は激しく抵抗するのだが、
途中から動かなくなり、
おとなしく受け入れているようにも見える。

それは変態レイプ野郎にとっては、
相手が嫌がって抵抗することが、
かえって嗜虐心を煽って、
むしろ相手を興奮させて満足させる、
ということを計算に入れ、
あえて無抵抗のリアクションをしている、
というルーニー・マーラの演技プランなんだ、
とデビット・フィンチャーが解説するのだが、
このリアクションによって、
リスベットがこういう体験を何度も乗り越えてきた、
というリスベットのキャラクターづけがなされる、
とデビット・フィンチャーは解釈するのだ。

こういう演技が観客に伝わるかどうかは、
保証されているものではない。
それでも役者が自分なりに解釈して演技して、
このシーンにおいては監督の指示があったわけでもなく、
そしてこの映像が記録されたのだとしたら、
僕は感服して拍手を贈ることしかできない。

と、このような貴重な映画体験を
「ドラゴン・タトゥーの女」は
させてくれているのである。

結局、この時に辞めた会社は、
数年後に中国人のホステスみたいな女に
乗っ取られる形になり、社長は追い出された。
やはりそうなるような運命を
なんとなく僕は感じていたのだ。

辞める少し前に僕とトラブルになった内藤さんという人は、
最近、別のゴミ収集の車を運転しているのを見かけた。
辞めた僕、僕に嫌がらせをしていた内藤さん、
その内藤さんに陰で空気を入れていた濱崎という奴、
それらの有象無象のたむろする、
ゴミ収集の会社を経営していた財津という社長。
こいつらみんなで僕の貴重な経験のための
お膳立てをしてくれていたとも言える。

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