お弁当のわかまつ

若松の競艇場で仕事をしている時、平日は、

競艇場のすぐ近くにある、

「お弁当のわかまつ」という弁当屋さんで、

スタッフの弁当を調達していた。その頃の話。

おばちゃんが二人でやっている店なのだが、

もうすぐ通い始めて一年になるので、

二人ともすっかり顔なじみである。

おばちゃんが二人というのはちょっと正確な表現ではなく、

年が上のおばちゃんと年が下のおばちゃんがいて、

年が上のおばちゃんは年が下のおばちゃんのことを

「ねえちゃん」と呼んでいるので、

「おばちゃん」と「ねえちゃん」が二人でやっている、

と言うべきなのだが、「ねえちゃん」というのも幅広い言葉で、

僕にとって「ねえちゃん」のイメージは、

17,8歳から35,6歳という感じなのだが、

ここでは便宜上「おばちゃん」と、

「ねえちゃん」と表記させていただく。

とにかく僕は、平日は毎朝、

「お弁当のわかまつ」でスタッフの弁当を買うのだが、

その時一緒に、自分の朝ご飯も買うことが多い。

ちなみにスタッフといっても、レポーターさんは、

仕事中は忙しくてご飯を食べるひまがないので、

お弁当代500円を現金支給しており、

用意する弁当は僕とカメラマンの二人分だけである。

「お弁当のわかまつ」のメニューは二種類しかなく、

それは550円の幕の内弁当と420円の日替わり弁当なのだが、

スタッフの弁当代の予算は一人500円程度なので、

日替わり弁当を頼もうとすると、

「日替わりは量が少なくてお腹いっぱいにならんよ、

幕の内にしとき!!」と言われ、

結局、毎朝幕の内弁当を買っているのである。

そして、店のショーケースの中に、

幕の内弁当のおかずが並んでいるので、

その中から食べたいものをみつくろって、

適当にパックに詰めてもらってその日の朝ご飯にしているのだ。

なので、朝ご飯とお弁当はほぼ同じようなおかずだし、

僕はお弁当を二回に分けて、昼食と夕食として食べているので、

結局若松で仕事をしている間、平日は、朝、昼、晩と、

一日中「お弁当のわかまつ」のごはんとおかずを食べているのである。

「お弁当のわかまつ」は幕の内と日替わりしかないうえに、

基本的に日替わりの注文は断るので、

実質的には幕の内一種類しかメニューがないのだが、

そのかわり、イベント的な一品メニューの日が時々ある。

それは「焼き豚の日」「ちらし寿司の日」

「コロッケの日」「たこ焼きの日」などで、

大体月に一回くらい、それぞれのイベントの日がある。

そのイベントの日が近づいてくると

「兄ちゃん、今度○日に焼き豚するけど」

と言われ、僕は「じゃあ一人前お願いします」と言って、

いつもの弁当とは別に焼き豚を一人前買うのである。

また、「ちらし寿司の日」には、プラス100円で、

いつもの弁当のご飯をちらし寿司に変えてもらう。

昨日の朝ご飯を選んでいる時には、

おばちゃんから「今トンカツが揚がったところやけん、

トンカツにせんね?」と言われ、

ねえちゃんからは「今日はおでんができとるけど、

どうする?」と言われ、

またおばちゃんから「兄ちゃんの好きな

レンコンの天ぷらもあるよ」と言われ、

ねえちゃんから「ポテトサラダが、

今できたとこやけど」と言われた。

どうもおばちゃんが揚げ物担当で、

ねえちゃんが煮物とか他の付け合わせを

作っているようなのである。

そしておばちゃんが「明日はたこ焼きの日やけんね」

と言うので、僕がどうしようか迷っていると、

「そんなら今日はトンカツとレンコンの天ぷらに

しといたらいいが。そして明日は、

たこ焼きとおでんにしんしゃい。

おでんは一日経ったほうが、味がしゅんでおいしいけん。」

と言われ、昨日の朝ご飯のおかずは、

トンカツとレンコンの天ぷらと、ポテトサラダになった。

それで、おばちゃんが計算していたら、

「ああ、ごめん、兄ちゃん、800円になったけど、よか?」

と聞かれた。550円の弁当を買いに来て、

ついでに買った朝ご飯が800円か、まあ、いいか。

と、昨日は豪勢な朝食になった。

それといつも買う弁当を二個もらうと、

いつもおばちゃんは50円おまけしてくれるので、

「弁当が二個で1050円やろ、

それからこれが800円やき・・」と、

言いながら計算機に打ち込んで、

「全部で1850円やね、計算機使う程じゃなかったね、

なにしろ頭がいいもんやけん、ごめんね、兄ちゃん」と、

僕が朝一番にする仕事は、いつもこんな感じなのである。

なので自動的に今日の朝ご飯は、

たこ焼きとおでん、そして、今日はねえちゃんが、

「ごぼう天とちくわと玉子とこんにゃくを入れたら、

全部で4つになったけん、4は縁起が悪いけん、

こんにゃくを二つ入れとるけど、よか?」と言うので、

「ああ、いいよ」と言うと、おばちゃんが、

「兄ちゃんの好きなレンコンの天ぷら、

まだあるけど」と言うので、それももらって、

そしたらねえちゃんが、「ご飯もいるやろ?」

と言うので、「うう、ああ」とあいまいな返事をしたら、

今日の朝ご飯は、

ご飯とおでんとたこ焼きとレンコンの天ぷらという、

わけのわからないメニューになってしまった。

これが僕が競艇場で働いていた時の唯一の暖かい思い出。

これが2014年の4月9日に食べた、
最後のお弁当のわかまつのお弁当


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