息子よ、お前にはまだ未来があるんだ
これは10年前、2013年に書いた文章です。
息子のハルも今は24歳です。
この母親は一昨年亡くなりました。
「息子よ、お前にはまだ未来があるんだ」
僕の母親がちょっとした手術を受けることになり、
入院しているので、うちの奥さんが、
先週の日曜日にお見舞いに行こうと言った。
僕は、母親は自業自得だと思っているので、
病院で嫌味を言ってしまうかもしれないと思い、
あまり行きたくなかったのだが、
これも「嫁」としての仕事だろうし、
行かなかったらまた母親がひがんで、
何を言い出すかわからないので、
とりあえず一緒に行くことにした。
うちの子供は、毎週土曜から日曜にかけて、
僕の実家で過ごしているので、
僕と奥さんと子供と僕の父親の、
四人で出かけることになったのだが、
途中で食事しましょうということになって、
スパゲティー屋(五右衛門)に入った。
料理ができるまでの間に、
うちの父親が「こいつ(僕の息子)は、
一日中これ(スマホ)ばっか見てて、
全然勉強しない」と言った。
僕や奥さんに同調を求めるような口ぶりであった。
何年かに一回くらいしかない、
こんな「家族団欒」な感じの場でさえ、
そんな、子供を責め立てるようなことに使うのか、
この人は30年以上前、
僕が中学生や高校生の頃にも、
あまり根拠なく、ただ、勉強するのがいいことだ、
みたいなことを僕に対して言ってたけど、
あの頃とまったく変わっていない。
母親はキリスト教を盲信し、
父親も根拠なく、学閥的な制度を支持している。
僕は子供の頃から大変迷惑していた。
うちの子供が生まれた時、
こんなに素直で可愛い、
未来のある生き物に触れたら、
この人たちの考え方も、
少しは変わるかもしれないと思って、
積極的に子供を実家に行かせるようにし、
今でも子供は毎週末に実家に泊りに行っているのだが、
母親はその子供を教会に通わせようとし、
父親は無理矢理勉強させようとしている。
僕は子供に対して、
「もしお前が信仰を持ったら、
親子の縁を切るから、それは覚悟しておけ」
「高校は義務教育じゃないから、
行きたくなかったら行かなくていい」
と日頃から言っている。
幸いうちの子供は、
お菓子がもらえるからというくらいの理由では、
教会に通ったりはしないし、
おじいちゃんに脅されたくらいでは、
机に向かったりはしないので、
まだまだ可能性はある。
ハル(僕の息子)よ、誰が何と言おうと、
お前はお前の道を、自分のペースで歩いてくれ。
でも、ハルよ、俺は、この愚かな両親が、
一日も早く、苦しみ抜いて死ねばいい、
なんて思っているわけではないんだ。
今からでも遅くないから、
早く人間の心を取り戻して、
一歩でもいいから、
人間らしい道を歩んでほしいと、
願っているんだよ。
でも彼等には彼等なりの信じた道があって、
そこを歩いて満足しているんだから、
それはそれでいいんだよ。
だから俺は、
病院でもおばあちゃんに嫌味は言わなかったし、
スパゲティー屋でもおじいちゃんに文句は言わなかった。
だからお前も、もしかしたらつらいかもしれないけど、
もうしばらく我慢してくれ。
あの人たちもそんなに悪い人ではないんだし。