関根くんの恋
これは2013年に書いたたわ言です。
もう20年以上、新聞も読まないし、
活字で書かれた本もほとんど読まないのだが、
マンガだけは積極的に読むように心がけている。
それから、映画も、映画館にはほとんど行かないが、
DVDはできるだけ見ようと心がけている。
映画に関しては、
僕の仕事が一応映像ディレクターだから、
そしてマンガに関しては、
これまで体験したどのメディアよりも、
日本のマンガで行われている表現が、
一番繊細で、一番先鋭的で、
創作意欲をかきたてるからである。
毎日同じような、つまらない映像をつくっていても、
「面白いものを作りたい」という気持ちだけは、
失いたくないと思っているからだ。
マンガに関しては、
①書店で定価で即買いするマンガ
②ブックオフで半額くらいで買うマンガ
③ブックオフで105円でなら買うマンガ
④買わずにレンタルして読むマンガ
の四段階があるのだが、
そうやって自制しても、家にマンガ本はどんどん増えて行き、
いくら本棚を増設しても足りないのである。
いずれ開店するカフェは、
マンガ喫茶の機能も備えたものにするつもりだ。
現在、書店で即買いする「Aランク」のマンガには、
東村アキコ、よしながふみ、ヤマシタトモコの作品などがあるのだが、
河内遙の「関根くんの恋」も僕の即買いリストに入っている。
昨日ツタヤで「関根くんの恋」の4巻を見つけて、即買いした。
この「関根くんの恋」、主人公の関根くんは、
超イケメンで仕事もできるしスポーツも万能の30歳。
その関根くんが恋をする相手が、
ちんちくりんでそばかすだらけの手芸店の娘という、
ある意味典型的な少女マンガのパターンなのである。
僕がこの本を即買いする理由は、
ただの王子様とそばかす娘のラブストーリーではなく、
関根くんという人物の特異なキャラクター設定とその描写方法が、
これまでのマンガにはなかった、新しい表現になっているからである。
関根くんがなぜ手芸屋に通うようになったのかというと、
自分の人生があまりにもカラッポで、
何にも興味が持てず、休日にやりたいことも何もないので、
とりあえず編み物でもしてみようかと思い立ったからである。
なぜカラッポだったかというと、
子供の頃からモテにモテまくっていたため、
女はいつも勝手に近寄ってきて、
「私じゃ不釣り合いだと思う」とか
「一緒にいると自分がダメに思えてくる」
とか言って勝手に離れていき、
結局自分の意志で人を好きになったり、
人と別れたりしたことが一度もなかったかららしいのだ。
それで関根くんは人から言われるがままに
キャプテン、委員長、会長、恋人などをこなしていくうちに、
本人は何もないカラッポの人間になってしまったのだ。
関根くんは自分がそばかす娘を好きなのかどうかさえ、
ずっとわからないままでいる。
だけどなんとなくそばかす娘に関することで
自分の心が乱れることがあることに気付くのだが、
それが、出会ってから一年くらいしてからのことなのである。
そんな二人が4巻でやっとドライブデートするのだが、
行く先は、羊の糸紡ぎ体験ができる牧場である。
そこに白馬がいて、そばかす娘は、イメージ通りの、
「白馬の王子様」の写メが撮りたくて、
関根くんに一人で馬に乗ってくれと言うのだが、
関根くんは二人一緒に馬に乗れなくてガッカリする。
と、このような、つまらない、
くだらないすれ違いを繰り返すのだが、
関根くんには女の子の気持ちがまったくわからないのに対して、
そばかす娘は現実をきっちり把握していて、
あまりにも関根くんと自分が、ルックス的に釣り合わないので、
二人の恋愛にリアリティーを感じられないのである。
結局、もてない女にとってあまりにも都合がいい、
シンデレラストーリーと言ってしまえばそれまでなのだが、
この「関根くんの恋」には、ただそれだけではない「何か」がある。
みんな、新しい「何か」を表現したいと思っているのだろう。
幸運にもそれができる立場にいて、
そして、それに成功している人の作品に出会うと、
嬉しくもなるのだが、やはり嫉妬してしまう。