「ミッドナイトスワン」見ました
今上映中の
「ミッドナイトスワン」という映画を
見て来ました。
元スマップの草彅剛が、
性同一性障害の人を演じて、
育児放棄を受けた親戚の女の子と
一緒に暮らすというストーリーでした。
実は僕はスマップの中では、
草彅剛が一番好きで、
テレビ業界の因習から
最近あまり姿を見なくなっていることを
少し淋しく思っていました。
YouTubeに「ミッドナイトスワン」についての
色々な感想の動画があがっていて、
そちらも何本か見ましたが、
バレエをやっている人、
本物のLGBTの人など、
様々なジャンルの人が、
それぞれの立場や視点から評価していて面白かったです。
ほとんどの人が好意的な評価で、
特に内容について批判的な動画はありませんでした。
ただ一点、草彅剛の凪咲が、
性転換手術の術後のケアが悪くて、
それが原因で命を失うというストーリーについて、
今の手術はそんなにひどい後遺症はない、
という意見が実際に手術を体験した人から出ていましたが、
その点についても別の実際に手術を体験した人が、
自分もお風呂に入る度に
出血して大変だったと語ってる動画もありました。
それらの動画の中で一番印象に残ったのは、
江頭2:50のエガチャンネルで、
江頭が実際に映画を観て感想を述べて動画です。
これが大絶賛。
草彅は日本アカデミー賞の主演賞を取る、
一果役の服部樹咲は新人賞を取る、
と、褒めに褒めまくっています。
江頭は「ぷっすま」によく出演していて、
草彅とは親しい関係のようですが、
そんな「ぷっすま」も
スマップ解散騒動の余波で終了し、
同じ頃に江頭が時々出演していた「めちゃイケ」も終了して、
地上波の仕事がほとんど無くなっていたところに
エガチャンネルが始まって、
今では登録者が200万人を超えて、
地上波とは別の次元での活躍をしているようです。
江頭の映画を観る視点は確かで、
あの映画のツボを押さえた、
的確な感想を述べていました。
地上波が衰退してもYouTubeの隆盛があれば、
映像メディアはこれからも発展していく一方だと思います。
それで僕も少し感想を書いてみます。
「ミッドナイトスワン」には
たくさんの印象的なシーンがあるが、
僕が一番印象に残ったというか、
「やられたな」と思ったのが、
一果の友人のりんという子が死ぬシーンである。
りんは裕福な家庭のお子さんという設定で、
一果とバレエスクールで知り合い、
まだ虐待の傷から立ち直れておらず、
周囲に馴染めずにいる一果を
写真のモデルのバイトに誘ったりして、
行動を共にして仲良くなり、
一果のバレエの才能を認めて一果に入れ込む先生に嫉妬して、
一果に個人撮影のバイトを受けるように進めたりもしながら、
一果に対して屈折した愛情を表現して一果との関係を深めていくのだが、
怪我が原因でバレエを続けるのを断念する。
一果が発表会に出場する時にりんが一果に電話してきて、
「じゃあね、バイバイ」と言って電話を切るのだが、
僕はその瞬間に
「もしかしたらアレをやるつもりか?」と思った。
その後の展開は僕の予想通りで、
りんはビルの屋上で開催されている、
知人の結婚式に参加しているのだが、
その屋上でバレエを踊り始め、
そのままそこに設置されている、
階段状の舞台セットのようなものを
トン、トンと昇って、
最上段から屋上の手すりを飛び越えて、
下に落ちて行くのである。
そしてカットは無情にもそこで切れてしまう。
その後、りんが死んだことや、
悲しみにくれる一果の表情などには
一切触れないのである。
こんな冷徹な演出の映画は
久し振りに見た。
同様に草彅剛が演じる凪咲も、
おそらく海岸で死ぬのだと思うが、
死んだことを示すカットや、
悲しむ一果の表情が撮られることはない。
代わりに映画の最後、
オデットを踊る一果の美しい姿が、
淡々と撮影されるが、
この一果の身体の表情の中に、
母親に虐待されたこと、
りんを失ったこと、
凪咲を失ったことなどの全てが集約され、
昇華されているというのがこの映画の構造だと思う。
果たしてそこまでのものが
観客にどれだけ伝わっているかはわからないが、
少なくともりんが亡くなるエピソードは
山岸凉子の「舞姫 テレプシコーラ」から、
何かのインスピレーションを受けていると思う。
「舞姫 テレプシコーラ」は
千花と六花という姉妹が
バレエダンサーを目指すというようなストーリーだが、
学業においてもバレエにおいても
常に優等生だった姉の千花が、
怪我をきっかけにバレエダンサーとしては絶望的となり、
それを悲観してビルの屋上から飛び降りるという、
衝撃的な結末を迎え、第一部が完結する。
僕はりんがビルの屋上から
一果に電話をかけるシーンで、
まさかアレ(テレプシコーラ)を
やるつもりじゃないだろうな、と、
ちょっと嫌な予感がしたのだが、
想像通りにりんは屋上から飛んだ。
それは別に山岸凉子のマンガを
パクったとかバクってないとかいうような、
低次元の話ではなく、
山岸凉子のマンガの素晴らしさを
こうして別の次元の表現に昇華して、
更に観客を突き放す、
冷徹な演出で表現したことに
むしろ感心したのである。
なーんて、ちょっとマジになって、
久し振りに批評活動をしてしまいました。