ちょっと自慢になっちゃっていますが
昔、テレビ番組の
ディレクターをしていた頃の話。
それは農業をテーマにした番組で、
毎回農家に行ってインタビューを撮っていた。
その回は養鶏場で
鶏を飼って何十年という、
おじいさんにインタビューしたのだが、
テレビに出るのなんて初めてという人で、
何回撮り直しても、
話の順序が逆になったり、
話の要素をひとつ飛ばして
話がつながらなくなったり、
なかなか収録が終わらない。
だんだんおじいさんは
プレッシャーと焦りで
話がしどろもどろになっていった。
これ以上テイクを重ねても
駄目になっていくばかりだなと判断した僕は、
これまでに撮った何テイクかを切り貼りすれば、
なんとかVTRは成立するなと判断して、
「はい、OKです」と収録を止めた。
すると収録の様子を
ヘッドホンでモニターしていた音声さんが
あわてて駆け寄ってきて、
「本当にこれでいいんですか?」と、
聞いてきた。
「えっ、なんで?」と思ったのだが、
「うん、これで大丈夫だよ」と答えると、
音声さんはしぶしぶ次の収録の準備をした。
後日、番組が完成して放送され、
その次の回の収録で
前回の音声さんと一緒になった時、
「ちゃんと番組になっていましたね」と、
感心したように言われた。
その音声さんは番組の仕上がりが心配で、
ちゃんとオンエアーで確認してくれていたのだ。
撮影の現場に何回も立ち会っている、
音声さんでも不安になるくらいの収録素材を
頭の中で編集しただけで、
OKと判断して収録を終わらせることのできる僕と、
その判断がつかない音声さんやレポーター、
そのキャリアのギャップがだんだん積み重なって、
そのストレスに耐えられなくなり、
僕はディレクターを辞めたのだった。