ハウステンボスの思い出
「ハウステンボスの思い出」
かつてディレクターの仕事をしている時、長崎のハウステンボスのPR番組を担当していた。ハウステンボスが民事再生法の申請をするちょっと前のことで、まだ第3セクターのような経営母体で、電通にいいように食い物にされていた頃のハウステンボスである。
まあ経営のことや経済ヤクザのことはどうでもいいのだが、ハウステンボスで根強く囁かれている噂に、ホテルヨーロッパは「出る」というのがあった。ハウステンボス内には、一般客が泊まれるホテルが4つあって、その中で一番豪華なホテルがホテルヨーロッパだった。夜中、そのホテルヨーロッパの廊下に、正体不明の物がフワフワと歩いている、というような噂だった。この話はハウステンボス内では禁句で、広報の人に軽く聞いてみたら、場が凍り付いてしまったことがある。
実はハウステンボスが建てられた土地というのは、長崎の原爆で死んだ身元不明の遺体が集められて埋められた場所だ、という話だったのだが、真偽のほどは知らない。ただ、2週間に一度はハウステンボスに行っていたのだが、何回行っても心が落ち着かない、寂寥感に満ちた場所であった。
そしてハウステンボスといえば、その名が冠されている、ハウステンボスという建物があるのだが、ここにフランス式の庭園があって、庭園は建物に囲まれた中庭のようなスタイルになっている。ここの庭でもよく撮影をしたのだが、建物で囲まれているため、いわゆる「音が回る」という現象が起き、建物の壁に反射して、誰もいない方向から、声や足音が聞こえてくることがよくあった。そういう場所だと知っていても、度々不思議な感覚に襲われていたものである。
この仕事のロケによく来る音声スタッフさんに、ものすごく霊感が強い人がいた。帰りのロケバスの中で背筋が凍るような話をしてくれたものである。夜中に。やめてくれ。この人と一緒にこの中庭でロケしている時、やはりあらぬ方向から足音が聞こえてきたのだが、その人がとっさに、戦場で兵士がするように身構えて伏せるような姿勢をとったので、「ああ、普段から見えたり聞こえたりする人はこんな風に敏感に対応するんだなあ」と、あらためて自分の霊感のなさを痛感したのだが、今にして思えば、彼が聞いていた音の中には、「本物」も混じっていたのかもしれないな、という気もしてくるのである。
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