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「元気一杯」というラーメン屋
2013年にFacebookに書いたグルメレポートのパロディ
こんなような文章を書いて遊んでいました。
「突撃グルメレポート」
今日は散歩がてら大博通りの方まで行ったので、
かねてから懸案事項であった、コワモテラーメン屋、
「元気一杯」に、突撃取材を試みた。
このラーメン屋は下呉服町にあるのだが、
これまでに複数の人から
「知ってますか?」と聞かれていたくらい、
いわく因縁つきのラーメン屋であった。
つまり、紀川さんは、あの、
巷で噂の「元気一杯」を知ってますか、
と聞かれていたのである。
僕はまったく知らなかったのだが、
どうも悪名高きラーメン屋であるらしい。
まず、写真でわかるように、
店名も書いていなければ、のれんもなく、
営業中という看板さえ出ていない。
エアコンの室外機の上に青いバケツが置いてあるのが、
営業中のしるしなのだという。
そして外からは店内が見えないように、紙が張ってある。
さらに、店には様々なルールがあり、
違反すると即刻退場を言い渡されるというのだ。
ネットで調べるとその様々なルールが
色々なホームページで紹介されている。
その一部を紹介すると・・・・
・最初にスープから飲まず麺から食べたら退場。
・最初にスープを飲んだが飲む前にかき混ぜてしまったので退場
(最初はかき混ぜず、そのまま飲むのが正解)。
・目の前にある辛子高菜はトラップ。ラーメンを食べる前に食うと退場。
・店の前に駐車すると退場(ベンツなどコワモテ車だと可らしい)。
・子供は不可。子供づれの時点で退場
・喫煙不可。
・携帯撮影はもちろん着信音が鳴っても退場。
・地図をもって店に入ると退場(一見さんお断りのため)。
・店内をきょろきょろ見回しても退場(同上)。
・メニューを聞くと退場(同上)。
・大盛りを注文すると退場(メニューを知らないとみなされるので)。
・ラーメンについてウンチク語るのも不可。
・関西弁不可(店主が嫌いらしい)。
・私語は避けたほうが良い。黙ってるのが吉。
・メニューを尋ねるとアウトだが、麺の固さは選べるらしい。
・メニューはラーメンとチャーシューメンときくらげラーメンのみ。
・様々なトラップが施してあり引っかかれば強制退場。
・そのためトラップをクリアしてラーメンにありつけると、
初めてラーメンを口にした人はそれだけで満足してしまうらしい。
・一歩店に入ればそこは治外法権であり一切の反論は許されない。
・米軍基地もしくは大使館と思え。
・しかしコワモテの人にはその法律も少々ゆるいらしい。
等々、大変な盛り上がりようなのである。
僕は、なんなんだこの店は、と思っていた。
たかがラーメンじゃねえか、
何気取ってやがるんだ。
ラーメンを注文して一口も喰わず、
床にどんぶりをたたきつけて、
そのまま無言で立ち去ってやろうか、と考えていた。
そんな「元気一杯」に、散歩の途中、
偶然出くわしてしまったのである。
どうするんだ、お前の正義感は、
世直しへの情熱は、どうするんだ、
僕は自問自答した。
そして僕は「元気一杯」との相打ちも辞さない覚悟で、
のれんをくぐったのである。
といってものれんはなかったのだが。
拍子抜けするほど愛想のいい、腰の低い兄ちゃんが、
「いらっしゃいませー」と元気に出迎えてくれた。
ちなみに僕はバリバリの一見さんである。
店内は15席ほどで、7~8人の客がいた。
普通のラーメン屋である。
確かに、携帯禁止、カメラ禁止、タバコ禁止などの貼り紙はある。
当店はスープを楽しむ専門店です、というような貼り紙もある。
しかし、店内に、窮屈なギスギスした空気はなかった。
ラーメンが運ばれ、
兄ちゃんが「スープからお召し上がりください」と言う。
レンゲでスープを味わい、それから割り箸を割った。
ネットで仕入れた情報通りの作法である。
たしかにスープはおいしい。
でも、かつて味わったことがないほどおいしい、
というほどでもなかった。
そして、僕が食べている間、誰ひとりとして、
退場を宣告された人はいなかった。
それどころか、僕の隣りの席の人に、
兄ちゃんが何かしきりにあやまっていた。
どうも、ラーメンとご飯を頼んだのに、
ご飯が来なくて、ラーメンを食べ終わってしまったから、
もうご飯はいらないと言われたらしかった。
「申し訳ございませんでした」と平あやまりであった。
そもそもラーメンにご飯?
普通のラーメン屋じゃねえか。
ラーメン専門店なら、
うちはご飯なんかありまっしぇんとうそぶくのが筋ではないのか?
「ご飯ありますか」と聞かれたら、
その時点で即刻退場にするのが「元気一杯」じゃないのか?
そもそも「元気一杯」って、
普通のラーメン屋の名前じゃねえか。
そして辛子高菜、これがべらぼうに辛いのである。
一口食べてみて、あわててスープを飲んだ。
しかしレンゲで何杯飲んでも、
舌が焼けるように辛いのである。
隣りの席の人が、
辛子高菜を直接ラーメンに入れていたが、
スープが血の池地獄のような赤色に変わっていた。
これではスープが台無しじゃないか。
あのとんこつスープの、まろやかな甘みが、
まったく感じられないじゃないか。
何かにつけ普通のラーメン屋であった。
ラーメン一杯650円、値段も普通だった。
この「元気一杯」のすぐ近くに、
有名な「福岡美容師バラバラ殺人事件」の
現場となったマンションがあった。
このマンションには焼き鳥の宅配のバイトをしている時に、
立ち寄ったことがある。
こちらのマンションの話の方がよっぽど興味深かった。