12年前の風物詩
今から12年前には福岡市の警固という街にあるマンションに住んでいた。
そのマンションで毎年音だけ聞いて参加していた風物詩があった。
うちはマンションの一階で、うちのベランダのすぐ前には、
隣りの敷地にある会社の駐車場がある。
ここで毎年12月29日に餅つきをやる。
今まさにやっているところだ。
普段は車が出入りするだけで、
人の話し声などほとんどしないのだが、
一年に一日だけにぎやかな声がする。
ベランダに出れば、
その餅をもらって食べられるくらいの距離なのだが、
いつも音だけ聞いてその餅つきに参加している。
きっと同じマンションの他の部屋の人たちも、
毎年この音を聞いているのだと思う。
古いマンションなので年配の人が多く、
なんやかやと文句を言いたがるババアなんかも住んでいるのだが、
毎年この餅つきが行われているということは、
特に苦情なんかは出ていないのだろう。
年寄りというのは、こういう風物詩のようなものには寛大だし。
もちろんテレビなどから年の瀬の風物詩的な情報は、
うんざりするほど流れてくるが、
身近にこうやって「年の瀬行動」を行っている人を見ると
(正確には音だけなので「聞くと」だが)
また別の感じで年の瀬感を味わえる。
この頃はなんとなく毎年ほんわかしていたのだが、
母の介護資金のためにこのマンションを手放して、
母は一昨年死に、僕は今熊本に住んでいるので、
このような風物詩にはお会いできなくなった。