"5"鎮痛の評価「CPOT」
ICUでのいろいろな評価
さてここまでで色々な評価方法を学んできました。鎮静評価はRASS、意識の評価はGCSやJCSなど。つぎにとっても大事な痛みの評価である「CPOT(シーポット)」について覚えていきましょう。
・意識評価 → GCS、JCS
・鎮静レベルの評価 → RASS
・痛みの評価 → CPOT、BPSなど
・せん妄の評価 → CAM-ICU、ICDSC(これは後日勉強していきます)
痛みは共感するのが難しい
痛みの評価って難しいんです。なぜなら「痛み」って極めて主観的な感覚だからです。むかし医学生の頃に受けた麻酔科の教授の授業が記憶に残っています。
「痛みって共感できないんですよ。喜怒哀楽のような感情ってある程度共感できます。目の前にいる人が喜んでいたら、なんとなくうれしいし、もし人が怒っていたら、私も怖い。だからこういった感情って伝わるんです。でも痛みだけはいっさい伝わらない。目の前の人が痛がっていても、私は痛くないじゃないですか。患者さんが痛くても私は1mmも痛くないんですよ。」
意識や鎮静レベルなどは客観的な指標で評価できますが、痛みに関しては、このように共感しにくいという点からすごい難しい。極論をいうと、患者さんが「痛い」と感じれば、それはもう間違いなく痛みなんです。でもそれだけだと薬が投与できないから客観的な評価方法も考えていきましょう。
ICUでの3種類の痛み
ICUでは患者さんは大きく3種類の痛みを感じていると考えられています。
① 処置に伴う痛み(ex. ドレーンを入れる時、創部の処置をする時など)
② 安静時の痛み(ex.安静臥床による痛み、挿管チューブの痛みなど)
③ 精神的社会的の痛み(ex.家族は元気かな..、仕事は大丈夫かな….)
①の痛みはわかりやすいと思います。こういう時は局所麻酔薬を使ったり、処置をする前に痛み止めを増やせばいいのです。②はICUに特徴的であると思います。安静臥床の期間が長くて、背中や腰は痛くなるし、挿管チューブも結構な苦痛と言われています。しかも「鎮静剤」ではこの痛みは取れません(鎮静剤と鎮痛剤は全く異なるんだってことは意識して覚えておいてください。当たり前なんですけど、意外と知られていないこともあります)。なので鎮静剤が使われていて、外から見て安楽に寝ているようでも、多かれ少なかれ痛みは感じていますので、注意してください。
痛みを評価する
ここはICUです。痛みを評価するのは難しいと言いつつも、持続鎮痛剤の投与を行うためには、痛みの評価をしないといけません。評価がないと、どれぐらいの鎮痛剤を投与したらいいか分からないからです。
そこで昔から痛みを客観的に評価する方法が考えられてきました(主観的な感覚だから、それを客観的に評価するって難しいことですよね)。有名なのは以下の3つです。何度も使ったことはありますよね?
VAS (visual nalog scale) 視覚的スケール
NRS (numeric rating scale) 数値スケール 0~10のうち何番目の痛みですか?ってやつです。
FRS (face rating scale) 表情スケール ニコニコから泣いている顔のスケールのやつです。
これらは簡易的で便利ではありますが、欠点があります。気管挿管されているICUの患者さんでは、鎮静もされているので、質問したり、表情から読み取るのが結構難しいのです。
人工呼吸管理中のための痛み評価スケール「BPS」
そこでBPS (behavior pain scale)という人工呼吸器管理中に使用するための客観的な痛み評価スケールが作られました。そんなに複雑ではなく、これなら痛み評価もできそうですね。
人工呼吸あり・なし両方の痛みスケール「CPOT」
CPOT (Critical Care Pain Observation Tool)(シーポットと読みます)は人工呼吸管理ありでも、なしでもいつでも使える痛みスケールです。これはICUでは便利ですね。PADガイドラインでも使用が推奨されています。ちょっとスコアが細かいですが、そのぶん正確性も高いと理解し、ぜひ使ってみましょう。合計点数で0〜8点で、一般的には「CPOT3点以上で痛みあり」と判定します。
各種試験を受験される方のテスト対策では人工呼吸管理中のみのBPSと、両方で使えるCPOTというのも覚えておいてください。
痛みの評価を行うタイミング
基本的にICUでは安静時の痛みというものが強くあります。したがってICUにいる間はいつ評価を行っても問題ありません。患者さんの訴えがないことが多いので、ルーチンに定期的に評価するのもいいでしょう。
例えばですが3交代であれば各勤務帯、すなわち日勤、準夜、夜勤の3回評価してICU温度板(重症記録)に記録しておいてください。
もしCPOT3点以上で、痛みを感じていると評価したら、鎮痛剤を増量します。ICUでは多くはフェンタニルの持続投与が使われていることが多いと思いますので、それの持続投与量を増量します。ここでマストのポイントがあります。鎮痛剤を増量したら、その後に再度必ず同じスケールで評価して、点数が下がっていることを確認してください。鎮痛剤を増量して、再評価なしのそのままはダメです。
例
CPOT 5点! → 持続フェンタニルを増量 → 30分後にCPOT再評価 2点 → OK
Today's note
・人工呼吸中の鎮痛スケール「BPS」、人工呼吸器ありなし両方で使える鎮痛スケール「CPOT」
・一般的にはCPOT3点以上で痛みありと評価します
・CPOTは定期的に評価する以外に、鎮痛剤を増減したら、その30分後ぐらいに再評価する
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