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天の川

夜空の上から、きみの住む街を見下ろして自分の住む街と大して変わらないと思った。

誰にも内緒できみに会いに行ったあの夏。
まだ肌寒かったことをおぼえてる。
七夕から少し過ぎたころのこと。

半年ぶりに会えた。
ご飯を食べて、お酒を飲んで。
一緒にお風呂に入ってわたしの髪を洗ってくれた。
抱き合って眠れるのが幸せだった。

食べたもの、したこと全部覚えてる。
行った場所の名前までは覚えてないけど。

海がみたいって言うわたしを海岸まで連れて行ってくれたよね。
わたしは内陸育ちだから海に憧れがあったんだ。

本当はこの頃からずっと言いたかったんだ。
きみが好きだって。

でも、めんどくさい女に思われたくなくて、ずっと飲み込んでいた。
歪でもいいから、ずっときみと繋がっていたかった。
おかしいよね。この頃のわたしは万能感に溢れて何もかも思い通りになると思っていたのに、きみにだけ臆病だった。

あのとき、本心をぶつけていたらなにか変わっていたかな?
なにも変わらないか。
だって、好きじゃなきゃこんな距離飛んでこないもんね。
分かってたでしょ?わたしの気持ちくらい。

来た時は通り過ぎるだけだった空港の中をよく見て、やっぱり自分の街と変わらないなとおもった。

それでも、きみにとっての物理的な距離はわたしの気持ちだけで埋まるものじゃなかったんだよね。
わたしは、きみが会いたいとさえ言ってくれれば、いつだってすぐに飛んでいける女だったのになぁ。

帰りたくない。今度はきみがわたしに会いにきて。って駄々をこねてみたかったな。



空の上から、きみの住む街を見下ろすと、自分の住む街とは違った景色だった。
海と陸が綺麗に別れていた。

夜には見えなかったものが、当たり前に陽の下では見えていた。

天の川に隔たれているのが織姫と彦星なら、海と陸に阻まれたわたしたちは一体なんになるんだろうね。


*5年前








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