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ガーディアンズ・オブ・(マイ)・ギャラクシー/小説におけるリアリティ

私の脳内には3人の芸人が住んでいて、私の精神世界の安寧を守ってくれている。
ノンスタイルの石田。職場でアクの強い人の話が始まったらあおりながら流してくれる。千鳥のノブ。ママ友のデリカシーなさめの発言を優しく笑いに変えてくれる。そして、大木こだま師匠。彼は(あくまで私の価値観において)小説におけるリアリティが感じられるかどうかをジャッジする審判である。私の(粗末な)美意識を司る門番ともいえる。

虚構の世界において、その世界が齟齬なく構築されているか、はたまた世界が前提としていることに無理がないか。この2点を基準として、大木こだま師匠の「そんなやつおらへんやろ~~~!!」という警報が鳴った場合、その作品がどんなに売れていても、評判が良くても、人に勧められたものでも、私は読むのをやめることにしている。



以下に挙げるタイトルの小説がお好きな方には、不快な思いをさせるかもしれません。すみません。当然ですが、作品が悪いのではなく、私の想像力に限界と偏りがある、という話として読んでいただければ幸いです。




多くの本好き女子生徒が勧めてくれた、内蔵を……食べるとか、そういう感じのタイトルの大ヒット小説。私の父も、映画を見て、良かったわ~と言っていた。涙腺の基礎工事に欠陥があったのか、すぐ決壊する私のことである。読めば絶対泣く。絶対いい話に決まってる。

でも、この小説の一行目。主人公の男子高校生の母親が、彼に、メールで米炊いといてくれ、と頼む。それに対して主人公の少年は「了承の意を送る」。ここで警報が鳴った。

カッコよすぎる。男子高校生の思考にしては言葉のチョイスがあまりにもカッコよすぎる。こんなカッコいい高校生が存在する世界を、私は脳内に構築する自信がなかった。それで読むのをやめてしまった。

また父は、同作映画の見どころとして、ヒロインの少女が、商店街でおばあちゃん相手に難癖をつけていたチンピラに啖呵を切り、追い払うシーンを挙げてくれた。ただ私は、そのシーンを吉本新喜劇の舞台で再生してしまった。こういう残念な思考回路ゆえに、多くの純粋な心の持ち主が涙する感動作、美しい世界を、私は脳内に構築することが叶わないのである。

次に挙げる作品は、ちょっとうろ覚えだけど、大きな哺乳類の名前がタイトルについていて、本屋大賞を受賞していた。こちらも大ヒット作である。たぶん映画にもなった。母が読み終わった本を私にくれた。良かったよ~、と。最初はちょっと辛い話もあるけど、最後感動したよ~と。素敵な表紙。詩的なタイトル。本屋で見かけて気になっていたので、さっそく読んだ。


この物語は、一人の女性が、田舎に引っ越すところから始まる。ところが、都会から来た彼女に関して、村の人々はあらぬ噂を流しているとのこと。どうやらやっかいなおばあちゃんがいるらしい。タフな彼女は、そんな状況を意に介さず、おばあちゃんが噂話をしているところをつかまえたら「ぶっ飛ばしてやる」と、心の中で豪語する。ここで警報が鳴る。


もちろん、この「ぶっ飛ばしてやる」は、言葉のあやであって、本当に彼女が「ぶっ飛ばす」つもりでつぶやいたのでないのは分かっている。「ぶっ飛ばしてやりたい」と思うくらい「腹が立っている」という表現なのは承知している。

でもここで私の粗末な脳みそは、「あの子は東京でいかがわしい仕事をしてたらしいわよ~~~ヒヒヒ~~」と、近所の話友達相手ににやにや話しているおばあちゃんの肩をつかんで、「ババア!」と一言、主人公が振り向きざまの老婆の横顔に一発お見舞いする絵を浮かべてしまう。それで笑ってしまうのである。ジョジョやん!と。そこからばあさんはどんなスタンドを繰り出すのか、気になってしまうのである。

じゃあ「やれやれはいいのか、とかそういう話になってくる。そんな「やれやれ」っていう人いるんですか。たぶんいないと思う。単純に関西人だからかもしれないけど、人生で「やれやれ」って言ってる人に会ったことない。


でも、私は「やれやれ」っていう人がいる世界は想像できる。でも、心の中でおばあちゃんを「ぶっ飛ばす」と考えている人がいる世界は、上手に想像できないのである。たぶん、実際にいるのかもしれない、とも思うけど。繰り返しになりますがどっちがいいとか悪いとかじゃなくて、ただ単なる好みの問題です。


ちなみに警報が鳴っても最後まで読む本もあります。ジョゼ・サラマゴの『白の闇』と、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』です。この二作は、上記二作のように、表現について警報が鳴ったのではなく、設定に対して警報が鳴ったので、読みました。最後まで読まないとわかんないよな……と思って。世界的にたくさんの人が読んで、感動する、ということにも、納得がいきました。でも私の頭の中では最後までこだま師匠の警報は鳴り止まなかった。


▼『白の闇』ジョゼ・サラマゴはノーベル文学賞受賞作家。同タイトルはノルウェー・ブック・クラブの世界最高文学の100冊にも選ばれた。



▼『わたしを離さないで』カズオ・イシグロもノーベル文学賞受賞作家。


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