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農薬は本当に危険なのか(中編)

前回のまとめ
・安全性と薬効が認められた農薬だけが農薬登録を受けて使用される
・農薬を使わないと収穫量、品質ともに低下してしまう


今回は農薬が虫や雑草に効くメカニズムを選択毒性に着目して説明したいと思います。

選択毒性とは

選択毒性とは、ある薬剤が特定生物(病原菌や雑草、病害虫)に対して致命的な毒性をもつ一方で、作物や人間には毒性をもたないという性質のことである。

このように生物種間で薬剤の作用に違いがあることを選択毒性がある、という。

農薬は選択毒性を確保するために次のような違いに着目して開発される。

①吸収過程
 例: 農作物と雑草の根の深さの違い

左側の除草剤は吸着性が大きいため、根系の大きな雑草を枯らせ、根系の小さな農作物は枯らさない
右側の除草剤は吸着性が小さく、根茎の小さな雑草を枯らせ、根系の大きな農作物は枯らさない

②体内での作用
 例: 雑草や虫はその薬剤を解毒、排出できない

③固有の受容体
 例: ターゲット生物だけが持つ受容体を狙う

④固有の性質
 例: 植物が持つ光合成機能を狙う

それでは具体的な農薬を見ていこう。

マラチオンの場合

マラチオンは殺虫剤、殺ダニ剤として使われている薬剤である。
マラチオンは体内のアセチルコリンエステラーぜに結合し、神経の過度な興奮を引き起こして死に至らしめる。

哺乳動物はマラチオンを分解し無毒化することができるが、昆虫は分解することができない。

ゆえに虫に対して毒性を持つが、我々人体に対しては「経口接種した場合、直ちに吸収、代謝され、尿または糞便中に排出される。発がん性、催奇形性及び遺伝毒性は認められない」(農林水産消費安全技術センター)

マラチオンの構造(Wikipediaから)
昆虫体内でアセチルコリンエステラーゼに結合し、アセチルコリンの分解を阻害する

プロパニルの場合

プロパニルはおもに水稲栽培に使われる光合成阻害型の除草剤である。
雑草の光合成を阻害し枯らせる一方、イネにはプロパニルを分解する酵素があるため、イネは光合成を阻害されず枯れることはない。

プロパニルの構造(Wikipediaから)
光合成の電子伝達系を阻害する

ポリオキシンの場合

ポリオキシンは殺菌剤である。
植物感染症の原因の70%以上は菌類(糸状菌)によるものだと考えられている。

つまり、菌類に特徴的な性質に着目すればよい。
下に動物と植物と植物病原菌の細胞壁の主成分についてまとめた。
菌類の細胞壁がキチンという物質(高分子)でできていることが分かる。

ポリオキシンは病原菌細胞壁の主成分であるキチンの生合成を阻害することで病原菌をやっつける。
一方で、そもそもキチンを合成しない動物や植物に対しては毒性がないということだ。

ちなみに「JIN-仁-」でおなじみペニシリンも、細菌の細胞壁の主成分であるペプチドグリカンをターゲットとした、選択毒性を持った医薬品である。

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