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胡蝶の瞬間
日中、書斎から網戸越しに景色を眺めていたところ、一匹の蝶が網戸に留まった。
普段は虫が留まることはめったにないため、なぜ蝶が留まったかはわからない。強いていうなら、その際音楽をかけていたからだろうか。別に蝶に合いそうな音楽ではないと思うが。
とにかく、珍しいその蝶を無視することはできず、しばらく観察することにした。
…5分くらい経ったただろうか。蝶は水玉模様の羽を、音楽に合わせているかのように揺らせていた。動きの少ない光景に穏やかな気分になると同時に、今日は雨の予報なのだからわざわざ揺らさなくとも…と野暮なことまで心に浮かばせていた。
そのような時間もやがては終わる。網に留まった蝶は飛翔し、辺りを不規則に往復した後にどこかへ去っていった。
去ってゆく蝶に余計な喪失感を抱きつつ音楽に耳を傾けたが、周囲はすでに閑静な一室となっていた。
…胡蝶の夢ほど分別がつかなったわけではないが、確かに蝶を眺めていたあの時間は、ぼんやりとした夢、白昼夢のようだった。しかし現実だとは理解していたので、あえて夢ではなく、胡蝶の瞬間と記しておく。
最初は驚いたが、静かに羽を揺らす姿は思いの他楽しめたので、夢を見せた夢見鳥には感謝している。
その後定期的に雨が降り分けられたような篠突き雨が降ったのはいうまでもない。
葉落ち月 鶺鴒鳴