note「女子プロ野球クライシス」19
男子プロ野球ファンからの認知
2016年、
リーグ設立7年目。
この年の試合数は64試合と、
前年から
17試合も少なくなってしまいましたが、
観客動員数は7万193人と、
前年より1万1939人増加、
120%成長しました。
この年は、
ここまで女子プロ野球認知のために
蒔いてきた種の一つが、
理想的な形で実を結んだ年となりました。
それは、
男子プロ野球の
「オリックス・バファローズ」とコラボした、兄妹マッチが実現したことです。
2016年5月15日、
ほっともっとフィールド神戸で開催の
オリックス 対 ソフトバンク戦終了後に、
女子プロ野球リーグ公式戦
「兵庫ディオーネ 対 京都フローラ」戦が
行われました。
リーグ設立から7年目にして、
ようやく、
男子プロ野球と同じステージで
野球をすることができたのです。
いつかは実現したいと
強く思っていた企画でした。
女子野球と男子野球の壁は、
私が想像していたより遥かに高いものでした。
いくら球場や団体にかけ合っても、
「女子プロ野球?
そんなもの、流行るわけがないでしょう」
「プロ野球は、
そういう色気とかとは無縁な世界なんですよ」
始球式にアイドルや女優を使っているのに、
このようなことを言う人もいました。
そんな声に耐え、
地道に活動を続けてきた結果、
7年かかりましたが、
ついに実現した夢の一つでした。
7823人という、
今まで体験したことのない
人数の観客に観てもらった試合は、
さすがのベテラン選手たちも
緊張したそうです。
先発のピッチャーは
「緊張して最初の数イニングは
うまく投げられませんでした」
と言っていました。
ただ、
イニングを重ねるたび徐々に
いつも通りのプレーになっていきました。
特に試合終盤は
いつもより調子がでていました。
普段から男子と同じ球場でプレーしていますが、フェンス直撃の打球に観客は驚いていました。
試合後、観客席インタビューで、
「女子プロ野球、
想像していたのと全然違う!」
「迫力があったし面白かった!」
「今度は別の選手も見てみたいなぁ」
と嬉しい言葉が聞こえてきました。
インタビュー用の
お世辞だったかもしれませんが、
私がはじめて女子野球を見たときと同じ気持ちを、少しでも多くの方に知ってもらえた良い機会でした。
少なからず
プロ野球ファンに受け入れられたことは、
女子プロ野球リーグにとって
大きなステップアップとなりました。
それら一つひとつの感想が10年前、
私が丹波の小さな球場で味わった
興奮や高揚感と同じものだと信じて、
また気合を入れ直すことにしました。
女の子だって甲子園
そして、このタイミングで
『花鈴のマウンド』
というマンガの執筆をスタートしました。
より女子野球の魅力を広く伝えることが目的ですが、結果的に選手たちのモチベーションを上げることにも繋がりました。
『巨人の星』や『ドカベン』、
『野球狂の詩』など昔から野球マンガは
子どもたちから人気を集めています。
マンガをきっかけに
野球をはじめたというプロ選手も
当然いることでしょう。
おこがましい気持ちもありますが、
少しでも『花鈴のマウンド』が
そういう存在になれば嬉しいと思い、
シナリオ学校へ通い、
自分でシナリオを書き上げたのです。
〝女の子だって甲子園!〟
というキャッチコピーを冠し、
「ついに
〝全国高等学校 女子硬式野球選手権大会〟が、決勝戦は甲子園球場で、
満員の観客の前で、
できるようになった」
という世界で奮闘する
女の子たちの努力と友情と成長を描く物語です。
ネット上で連載をはじめたのですが、
現実では実現できないことや、
普通なら照れくさくて言えないようなことも、マンガのキャラクターを通してならまっすぐに伝えることができました。
私を含め、
制作チームはマンガのプロではないので、
拙い部分も多いマンガですが、
伝えたいことは表現できていると思います。
編集部にはエピソードが更新されるたびに
さまざまな意見が寄せられます。
賛否両論ありますが、その中に、
「花鈴のマウンドを読んで、
私も野球をやってみたくなりました」
という小学生の女の子の声がありました。
マンガを通じて女子野球を目標にしてもらい、〝野球少女〟が一人でも増えてくれることが
今の私にとって何よりの喜びになっています。
赤字脱出の糸口
2017年、リーグ設立8年目。
年間試合数は71試合。
前年より7試合増加しました。
観客動員数は8万2493人。
前年より1万2300人増加で
約118%成長となりました。
試合数は各チーム40試合程度、
リーグ全体で70試合程度と
安定した運営ができるようになりました。
この年、長年の問題となっていた
女子プロ野球の財政問題を解決するかもしれない、嬉しい話を聞くことができました。
これまでも約40社の企業から
年間数十万円ほどの支援をしていただいているのですが、女子プロ野球の活躍に注目した大手企業から大規模なスポンサードの打診や、
参入の相談が増えはじめたのです。
「やっと、やっと想いが届いた……」
私はこれまで頑張ってくれた
運営スタッフとともに、
喜びをかみしめました。
2014年に一般社団法人にしてから3年、
ようやく芽吹いた種でした。
相談があったのは
全国チェーンの小売店を持つ企業からです。
その企業の担当者はとても熱心で、
女子プロ野球に対する私たちの想いに
深く共感してくれ、
具体的な計画も立ててくれました。
しかし結果として本社から
「どう考えても大赤字になる。
プラスマイナスゼロも難しい」
との判断となり、
決裁はおりませんでした。
ただ、協賛は実現しませんでしたが、
「店舗単位になってしまいますが、
応援、支援させてください」
と担当者は言ってくれました。
実際、店舗内での告知やイベントを行ってくれたり、大々的ではありませんが、
買い物客が必ず目にとめるレジの後ろの方に女子プロ野球のポスターを貼ってくれていたりと、心を尽くして宣伝に協力してくれました。
私にとっては、
大規模な支援はもちろん嬉しいですが、
額が小さかったり、お金でなかったりしても、女子プロ野球を広めるために行動してくれる
その姿勢がとても嬉しいことでした。
その店舗は今もことあるごとに協力をしてくれていますし、よい関係を続けています。
また、ある会社の経営者は、
自社でもクラブチームを持っており、
私たちと同じように女子野球を本当に広めていきたいという熱い想いを抱いていました。
「自社でもやってみて、わかさ生活さん、
女子プロ野球機構さんの運営をみて、
本当に難しいビジネスだとわかりました。
ただ、このやり方では絶対に黒字にはならない。やはり、女性×スポーツビジネス、
ショービジネスという強みを活かすべきです」
と、アイドル路線的な要素を
取り入れることを考えているようでした。
ビジネスとしては
それも一つの正解かもしれませんが、
女性らしさをウリにせず、
まっすぐ野球の魅力を伝えるべき、
という私たちが目指す方針とは違いました。
女子野球の最大の魅力は、
プレーしている選手たちが
本当に野球が好きなんだ、
ということが観客に伝わることだと
私は思っています。
みんなが本気で、
思いっきり、楽しそうに野球をしている
彼女たちだからこそ、
地域に愛され、人に愛され、
地道に観客を増やしてきたのだと
確信しています。
同じ経営者として、
その会社の社長の想いが
本気であることはわかりました。
彼も決して選手たちを単純に
「タレント」
として扱うつもりではないこともわかりました。
「ありがとうございます。
ですが、私はそういうことはできません。
しかし、やり方に違いはあっても目指すべき場所は同じです。
これからも協力し合えるところは
是非ご一緒しましょう」
そう伝えました。
スタッフからも、選手たちからも、
「え? 断っちゃったんですか⁇」
という声がありました。
この時点で
女子プロ野球リーグの赤字総額は
70億円を超えており、
経営としてみれば下手を打った、
失敗した、なんてレベルの話ではありません。
いくつも会社を潰しているような金額です。
ずっと、そのようなスタンスで
運営してきた女子プロ野球リーグなので、
ビジネスとして見れば知らず知らずのうちに
参入障壁が高くなってしまったのかもしれません。
女子プロ野球の運営は、
ある程度大きな規模の会社でも
難しい事業になっていたのです。
ただ、私にとっては、
何度も人生を、
ときには本当に命をも救ってくれた
野球への「恩返し」なのです。
「撤退しろ」
「趣味でやれ」
と陰で言われながらも、
心血を注がずにはいられないのです。
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note版特別コメント
男子プロ野球チームとのコラボマッチは、
男子の試合の後直ぐに
女子プロ野球の試合を行います。
そのため、
観客数はもちろんのこと、
雰囲気などが普段とは大きく異なります。
その中、
京セラドーム大阪で行われたコラボマッチにて
「あわやホームラン!」
というフェンス上段への直撃弾を打ち、
女子プロ野球リーグのレベルの高さを
アピールした
埼玉アストライア
岩谷美里選手にお話しをお聞きしました。
《岩谷美里選手コメント》
単純に、
「たくさんのお客さんが観てる中で
プレーができる!自分のプレーを見せられる!」
という嬉しい気持ちでいっぱいでした。
その反面、
ただでさえ男子と比べられる中で
「男子の後に変なプレーをみせれない…」
とか、
「レベルの高いプレーをみせないと…」
というプレッシャーもあったのは事実です。
でも女子プロ野球を拡めることのできるチャンスでもあるのでワクワク感の方が強いです。
(フェンス上段への直撃弾について)
ホームランになってくれていたら
良かったんですが…。
ホームランにはなりませんでしたが、
女子でもしっかり打球を飛ばせる
というところがアピールできたかな
と思います。
あの時は
“フェンスまでこんな簡単にいくんだ”
って思ってましたが、
グランド外で改めてみると
“やっぱり遠いな”と…。
いつかスタンドインさせたいと思います!
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女子野球の魅力を
高校生の成長と共に描いたマンガ
【花鈴のマウンド】のWeb連載スタート!
今では
「女の子だって甲子園」
というキャッチコピーは
女子野球界では
知らない人はいないほどの認知度に!
コミックスも累計15万部を突破!
【花鈴のマウンド】が及ぼす影響力と
これからどういう存在にしていきたいのかを
漫画を描いているヤマブキさんにお聞きしました。
《ヤマブキ先生コメント》
私は女子野球の存在を
入社するまでは知りませんでした。
絵を描くことが好きということから、
花鈴のマウンドを描くことになり、
そこからは女子プロ野球の観戦も
見方が変わりました!
観戦や取材を通して、
選手一人ひとりの
野球に対する意識や境遇を知り、
どんどんハマっていったんです。
自分一人の力でもできる事は何かとか、
マンガから少しでも何かできないかとか…
いちファンというか
『サポーター』
みたいな気持ちで今はやってます。
イベントを開催した時の話ですが、
花鈴モデルのピンクのグローブを見た
小さな女の子が興味持ってくれて
『やってみたい!』
と言ってくれたんです。
その時は、
女子野球選手になるきっかけをつくれたのかな?ととても嬉しかったです!
また、
女子プロ野球選手として頑張っているみなさんからは、野球に対する情熱などを目の当たりにすることで、良い影響をもらってます!
今後、マンガを読んで
女子野球選手になる女の子が増えてくれたら
嬉しいなと思いますし、
女子野球自体への認知や理解がもっと広まって
『女子が野球をする事』
が珍しい事じゃなくて
当たり前な世の中になっていくことを
願っています。