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note「女子プロ野球クライシス」22


勝負の1 0年目

 
2019年3月23日、土曜日。

春季リーグが開幕。
 
10年目のシーズン、
開幕戦が「わかさスタジアム京都」で
開催されました。
 

京都フローラのホームグラウンドです。
 
13時
京都フローラ対埼玉アストライア戦
 
15時半 
京都フローラ対愛知ディオーネ戦
 
1日2試合のダブルヘッダーで
開幕戦がスタートしました。
 

全3球団が、同日試合をするのです。
 
今までは
2球団分のファンしか来なかった球場に
3球団のファンがやってくるのです。

観客動員数は3661人。

観客席には
3球団分の応援ユニフォームが入り交じり、
これまでに見たことのない、
不思議な景色が広がっていました。
 
試合については、
2試合戦うフローラと、
1試合だけでいいアストライア、ディオーネ、

それぞれの戦術や戦略も微妙に変化し、
観ていて面白い要素が増えたと感じました。
 
観客の滞在時間も増え、
今まで売れ残り、廃棄処分があった
キッチンカーの食べ物は完売しました。

春季リーグは3月23日から5月10日までの
約1ヶ月半の間、
33試合を京都のわかさスタジアム京都と、
伏見桃山球場の2カ所で集中的に行いました。

選手たちの移動の負担を軽減し、
同時に移動にかかる交通費や宿泊費、
球場の使用料などのコストも抑えることができました。
 
観客には長く楽しんでもらえる、
食事やグッズの売上も上がる、
選手たちも試合に集中できる、
と、狙いが順調に実現できたことに、
確かな手ごたえを感じました。
 
こうして
春季リーグが順調に消化されていく中、
私は来たる夏季リーグに備えて
準備を進めていました。

夏季リーグは
6月2日から8月22日までの間、
愛知ディオーネのホームグラウンド、
東海地域で試合が展開されます。

 

そんなときでした。
 

私の身体に、また異変が起こったのです。

 

2019年5月10日。
 

その日は春季リーグ最終戦、
埼玉アストライア対京都フローラの試合があり、毎月1度行われる「わかさ生活」の社員総会の日でもありました。
 
22年目を迎えたわかさ生活では、
商品会議やマーケティング会議などで立て込んでいました。
 
スライドに映る資料を見ながら、
社員の話を聞いていたときでした。
 

突然、文字が二重になって見えました。

「あれ?」

と思い、
目をこすっても一向によくなりません。
 
次第に、
視野の右側が歪んで見えるようになりました。
 
ただでさえ右目が見えない私にとって、
視界は左側だけです。
 
そんな頼りの左目の視界の半分が
歪んでいるのです。
 

次の瞬間、

「ガツンッ」という衝撃とともに、
激しい頭痛に襲われました。
 
激しい痛みと、
額に滲む脂汗を止めることができず、
会議どころではなくなりました。
 
私はたまらず会議室をでようとしましたが、
まっすぐ歩いているつもりなのに
あちこちにぶつかってしまいました。
 
わずか20メートル足らずの距離を歩くだけでも、グラグラと目眩が起きて、
しばらく立ち止まり、
目を休めないと前に歩けなくなりました。
 
心配してくれる社員とも、
まともに対話ができません。
 

急いでタクシーを呼んでもらい、
私はすぐ家に帰り、
倒れるように眠りにつきました。
 
目を開けても、
3メートル先も見えないのです。
 

来月からは
夏季リーグがはじまるというのに、
なぜ今なのか。

「はがゆさ」と不安を、
ひたすら耐えるしかありませんでした。
 
その日は金曜日だったので、
土日は痛みや気持ち悪さと
ずっと闘っていました。
 
そして、週明け、
すぐに病院に駆け込みました。
 

歪む視界の中で診療を待つ数時間が、
まるで永遠に続くかのように長く感じられたのを覚えています。
 
やっと私の番になり、
診察を受けたのですが、
結果は原因不明。
 

なんなんだ、

と思いながらも
その日は家に帰ることしかできませんでした。
 
家にいても何もできません。
目を開けていられないので
スマホの文字も読めません。
 
1日でも、1秒でも早く、
この苦しみから解放されたい。
 
そんな考えが私を支配していました。
 

翌日、大学病院へ行き、
目や脳の検査をいくつも受けましたが、
そこでも原因がわかりませんでした。
 
私の不安は日に日に大きくなりました。
 
ついに杖がないと
まともに歩くことすらできなくなりました。
 
仕事のことも、野球のことも、生活すらも、
まともにできません。
 
藁にもすがる思いでたどり着いた
3つ目の大学病院で、
私はついに弱音を吐いてしまいました。

「本当に辛いんです!
やらなければいけないこともある。
なんとか、原因だけでもわかりませんか……」
 
医師は、私の必死の訴えに
真剣な顔つきで言いました。

「わかりました。
では精密検査のために入院しましょう」
 
私はすぐに入院することになりました。
 

2019年6月12日。
 
検査入院初日から
さまざまな検査がはじまりました。
 
人生ではじめての「髄液検査」。

背中を海老のように丸めて
脊髄から長い針を刺し髄液を取る。
想像しただけで怖いものです。

くも膜下出血や脳腫瘍で
入院していた子どものころのトラウマが
フラッシュバックしました。

検査をはじめる前に医師は
「30分ほどで終わります」
と言っていたのですが、
脊髄に針がうまく刺さらず、
何度も何度も刺し直すこととなり、

結局、6度麻酔針を身体に打ち込むこととなりました。終わってみれば、30分の予定の検査は1時間45分もかかっていました。
 
次に、筋電図の検査がありました。
説明を聞くと、
手足の筋肉に針を刺し、電気を通して、
筋肉が悪いのか、神経が悪いのかを調べる検査だそうです。
 
ベッドに横になった私は、
針を刺され、通電されました。

身体の内側から電撃を食らうという、
今まで味わったことのない痛みに
手足が飛び跳ねました。
とてつもない痛みを耐え抜いた後は、
これも2時間近く経ったのか、
と感じたのですが、
こちらは30分程度しか経過していませんでした。
 
入院は当初、
1週間の予定でしたが、
原因がわからないうえに
私自身の体調も相当悪かったらしく、
さらに1週間延長されました。
 
入院期間中、
血液検査、心電図、筋電図、髄液検査、
CT検査、造影剤MRIなど、
10を越えるさまざまな検査を受けました。

担当医の説明では髄液は問題なく、
血液検査も免疫抗体も陰性であり
癌や悪性リンパ腫もないとのことでした。
 
問題があったのは、
造影剤MRIの結果でした。

「以前に撮った画像とくらべて
脳に明らかな変化が見つかりました」
 
と言われ画像を見せられました。

「脳に、最近起きた出血の跡があります。
脳の中心部である海綿状血管の出血なので、
手術するのは大変難しい場所です。
安静が必要です。
些細な気圧の変化やストレスなども
非常に危険です。
お仕事があるのはわかりますが、
気圧差のある飛行機や新幹線に乗るのもやめて治療に専念してください」
 

ある程度覚悟はしていたのですが、
やはり現実を突きつけられると
大きなショックを受けました。
 
18歳のときに脳の大手術をしてから
気をつけていたはずなのに。
 
いつも人生の転機には、
脳の手術の後遺症がつきまといます。
 
女子プロ野球の春季リーグ最終戦があった
5月10日を最後に、
本社には40日以上も行けていない。
 
会社からの報告、
女子プロ野球リーグからの報告も
寂しい内容が多い。
 
経営者として、
男として、

できる限り弱いところは見せずに
生きてきましたが、
このときばかりはタイミング、
病状を含め本当に参ってしまいました。

「早く復帰したい」

と強く思っているのに、
もどかしさばかりが募りました。


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note版 特別コメント

今回は昨年女子プロ野球選手として
10年目を迎え、
今シーズンも選手として
女子プロ野球界を盛り上げてくれる!

京都フローラ
三浦伊織選手

埼玉アストライア
岩谷美里選手

に10年目に掛けていた想いをお聞きしました!

《三浦伊織選手コメント》

「10年目のシーズン次第で
来シーズンが継続できるか」

と言われていたのでより一層、
プレー面でも集客面でも
気合いが入りました。

10年間、
女子プロ野球での時間は
わたしにとってとても大切な経験をさせていただいたので、今こうして11年目もプレーヤーとして出来ること感謝しています。

今シーズンも女子プロ野球を盛り上げられるよう頑張ります!!

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《岩谷美里選手コメント》

同期の5人がチームメイトになって、
より勝たなきゃいけないという気持ちと、
節目のシーズンで

「今まで以上の成績を残したい!」

という気持ちが強かったです。

ただ、
試合が始まると
目の前の試合に集中していて、
シーズン中はそんなことは考えていられなかったです笑

今シーズンも気持ちを込めて全力でプレーしたいと思います!