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「コノ邦ニ生キル幸セ」?

日本精神保健福祉士協会のスローガン”すべての人に、「コノ邦ニ生キル幸セ」を。”がずっと引っかかっていた。心のどこかで「これは違う」と感じていたのだが、なかなかその理由を言語化できずにいた。
このスローガンが呉秀三の「我が邦十何万の精神病者は実にこの病を受けたるの不幸のほかに、この邦に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし」から来ているのはもちろん承知しているし、この言葉の重要性も理解している。
にもかかわらず、日本精神保健福祉士協会のスローガンには、なんともいえない違和感があった。不自然なカタカナ文字や邦といった古い表現が気になることも確かだが、それ以上に何かが違うという気持ちが拭えなかった。強いていえば、「気持ち悪さ」だ。

あれこれ考えていて、ようやく気がついた。
呉秀三のいう「この国に生まれたるの不幸」は、不幸だからこそ意味がある。広く世の中を考えた時に「この国」の問題を強く訴えたものであり、国を限定して使うことが重要だった。こんな不幸を押し付けてきた「この国」に対する糾弾の言葉でもあったのだ。
しかし日本精神保健福祉士協会が訴えるのは「全ての人の幸せ」である。ソーシャルワークにおける福利、幸福は世の中全ての人に対して願うものであって、「この国」に限定すべきものではない。
呉秀三の言葉を単純に裏返しただけの発想も気に入らないが、ソーシャルワーカーの団体が「コノ邦」という言葉で幸せの範囲を閉じているのが薄気味悪く感じられる。国家資格化以降、ソーシャルワーカーと国との関係が徐々に変わっていき、政策に取り入るような印象を持つことも増えていた。そうした流れの中でのこのスローガンには、なんだか嫌な気配を感じてしまう。

NHKのドキュメント72時間で用いられているテーマソング「川べりの家」(作詞作曲:松崎ナオさん)に印象的な言葉がある。
「幸せを守るのではなく、分けてあげる」
ソーシャルワーカーが考えるべきなのは、国や人種を超えた幸せのあり方であるはずだ。


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