ごりまる母さんメラピークへ⑧(全10話)
Thangnag から Khare(5000m) へ
Thangnag から Khare への道のりはどこを見ても、どちらの方向を見ても雪山の景色が雄大で、ヒマラヤの中にいることを実感でき、歩みを止めてはその美しさに溜め息をつき、そしてまた歩き出すということを繰り返していました。
「今、ここで自分が見ている風景をこれから何年先になっても覚えていられますように」と目に焼き付けようとしていました。
いよいよ最終地点のKhareへ到着
Khare (5000m) はメラピークへの拠点地となる最終地点。
ここからはメラベースキャンプそしてハイキャンプへと登っていくことになります。
お世話になるロッジにはイギリス、フランス、スペイン、そしてノルウェーからの登山隊で賑わっており、気の引き締まる思いに。
ここKhare では高所順応として2日間滞在することになります。
「ごめんなさい。私、ここで働いてないんです」
ひとり、ロッジの食堂で本を読んでいる時です。
「ミネラルウォーター1本下さい」と英語で話しかけられる声が。
ふっと本を閉じて前を向くと大柄なヨーロッパ系の男性が私を見ています。
「あっ。ごめんなさい。私ここで働いてないんです…」と私が言うと、彼は「ソーリー!てっきりここの人かと思って!」
このような会話。何回したことでしょう…
数えてはいませんが、かなりの数になります。
「このトイレットペーパーはいくら?」
「コカコーラある?」
「このキットカットはいくら?」
「充電は1回いくら?」
「栓抜きある?」
などなど。
よっぽど私が店の番頭さんのような雰囲気を醸し出しているのでしょうか。
最初は戸惑いがあったものの、この環境や地元の人々の生活の中に自分が溶け込んでいるような、私の存在がこの空間の一部分になっているような、そんな気がして「これいくら?」と聞かれるたびにだんだん嬉しくなる自分がいました。
トイレ真向かいの部屋と睡眠時間の密な関係
私の寝室はトイレの真向かいに。
夜中、トイレに行くには近くて便利な位置です。が、一晩中ひっきりなしに使われるトイレ。
いくら耳栓をしていても、ドアの開け閉め音、誰か使用中ですか?とトントンドアをノックする音、トイレ使用後に桶から水を汲んで流す音(深夜には桶の水に氷が張り、その氷を叩き割る音に替わる)等。
その他もろもろの生活音でほとんど全くといっていいほど眠れません。
ロッジとはこういうものとわかっていながらも、重なる睡眠不足の日々にそろそろ体と心に支障がでてくるのでは...と寝袋のなかで輾転としながら夜明けを迎えました。
装備の最終チェック&高所順応へ
各国からの登山隊は Khare での高所順応としてベースキャンプまでの往復をしたり、ロッジ近くの山でユマールを使った実技練習をしていました。
パサンは「メラピークはユマールを使う箇所はなく必要ないので、やっても時間の無駄です。実際に雪上を歩くことに時間を使いましょう」とロッジから約3時間ほどの所にある山へ行って最終調整することになりました。
気がかりな山の天候
最終調整も終わり、ロッジに帰ってくるとメラピークから途中下山してきたフランス隊の女性2名が食堂のテーブルで凍傷を負った両手を洗面器に入れて温めています。
あまり見るのも痛々しく、気が憚れたので、彼女たちに背を向けるように座り、耳に飛び込んでくる話を聞いていました。
ここ2-3日、山頂近くの天気が荒れており強風で気温はマイナス25℃になっていたそうです。
下山してきたスペイン隊の皆さんも疲労困憊の様子で、食堂の長椅子でグッタリ横になっています。
天候は明日の出発に影響はないとのことでしたが、風が少しでもゆるくなってくれますようにと祈るような気持ちで、冷凍室のように冷え切った自室に戻り、耳栓をして寝袋に滑り込みました。
まとめ
やっと、そしていよいよ翌朝にはハイキャンプに向かって出発。
ただ、山の天候と私自身の寝不足の日々からくるスタミナ切れに一抹の不安を感じながら「できるところまで。自分を信じてやるしかない」と静かに目を閉じました。
今回もここまで読んでくださって、ありがとうございました。
カトマンズから続いたこの旅も、あと少しとなりました。
もしよろしければ、引き続き一緒に山頂を目指して歩いていただけたら嬉しいです。