木の葉化石1:イタヤカエデの仲間Acer rotundatum
私が研究で扱っている木の葉化石を紹介しようと思います。
はじめにカエデの仲間Acer rotundatumを紹介します。
この化石は北海道北部に位置する士別市の湖南という場所に分布する美深層という名前の地層から採集したものです。化石そのものから古生物の生活していた年代を直接知ることは難しいですが,化石を含む地層やその上下の地層の中に含まれる火成岩や鉱物の放射年代測定により,今から1300万年前ころの時代を示す化石であることが調べられています。
1300万年前というと,北海道では絶滅した大型哺乳類のデスモスチルスが生活していた時代で,化石産地も近いですから,デスモスチルスも,もしかしたらこの化石の葉を見ていたかも?しれませんね。
※デスモスチルスはカバに似た体長3mほどの哺乳類で,海を泳いで生活 していた可能性が指摘されています。特徴的な海苔巻きを束ねたような歯を持つのが特徴です。大学入試共通テストでもよく問われますね。
一口に手のひら型のカエデの仲間といっても,きっと皆さんが想像するよりも多くの形のカエデがあります。葉の先がいくつに分かれているか(別れた葉の各部分を「裂片」といいます)や,葉の縁(葉縁)にギザギザ(鋸歯)があるか,あるとすればどんな形か,葉サイズや葉の付け根(基部),先端(葉先)はどんな形か,などなどいくつかの形をよく見てその種類を識別していきます。
このカエデの場合,一部が欠けていますが,裂片と裂片の間の切れ目が比較的浅く,葉縁に鋸歯がないなどの特徴から現代のイタヤカエデに近いと考えられるAcer rotundatumであると判断されます(根拠はそれだけではないですが)。
現代のイタヤカエデは北海道から九州にかけての冷温帯の山地斜面や丘陵帯に普遍的に見られるカエデです。イタヤカエデは幹から枝や葉をつけている様子を見ると,板を張り合わせた屋根のように葉が地面に対して平行に近い角度でびっしりとついていることがわかりますが,それが「板屋」カエデと呼ばれるようになった所以とされているそうです。
さて,この化石の場合,イタヤカエデに似てはいるものの,画像の右上にメモリが写っているように,かなり面積の大きな葉です。実は,葉の面積の大きい小さいという特徴は、いろいろな環境な要素を反映していることが指摘されており,中でも降水量と最も関係があるとされています。すなわち,面積の大きい葉が多いと降水量が多く,面積の小さい葉が多いと降水量が小さい傾向にあることがわかっています。ということはこの画像のような葉が多く見つかる地域では,その当時は降水量が多かったかもしれないということですね。
葉と気候の関係については私の論文でも扱っていますが,それについては後日改めて紹介したいと思います。
面積が大きいものの,1300万年前にはすでに現代のイタヤカエデとよく似た姿のカエデが北海道には存在していたことを示す化石です。葉脈も細かなところまで残っており美しい木の葉化石ですね。