木の葉化石3:ムカシカツラCercidiphyllum crenatum
カツラの化石は日本国内でも比較的よく見つけられる木の葉化石の一つです。
現代のカツラCercodiphyllumjaponicumは街路樹として札幌市の都心部でさえも当たり前にみられる樹木ですが,それはもちろん街路樹用に植えられたもので,本来は北海道から九州の山地に生育し,谷筋のような多湿環境を好む落葉高木です。私はしばしば一般市民の方向けに野外観察講座の講師なども引き受け,現代の樹木と植物化石について説明することがありますが,「カツラ」と聞くと小学生は頭にかぶるものをイメージするようで,必ずと言ってよいほどその名前に反応してくれます。カツラという名称は,カツラ特有の甘い匂いが由来とされています。落葉した葉は甘い香りを放つため,「香出る(かづる)」が名前の由来だそうです。
この画像のムカシカツラの化石は1200万年前ころの北海道北部下川町上名寄地区から産出した化石です。まるで現代の,ついさっきまで生きていた樹木の落ち葉に見えるほど状態が良く,ルーペで見ると細かい葉脈もはっきり残されています。1300万~1100万年前ころの名寄盆地周辺の地層中に最も普遍的に見られる植物化石の一つです。全体として円形に近い外形で,丸まった特徴的な鋸歯(鈍鋸歯)をもつか,波状で,基部は深く湾入している(心形)ことから容易に本種であると同定できます。
現代のカツラは渓畔を好む性質があり,それに近似である本種もおそらく同じ生態を持っていたことが考えられます。また、ムカシカツラの化石の産出状況(産状)を見ると,河川で堆積したと考えられる地層のうち,一部分にこの種の化石ばかりが見つかることもあり,葉や果実,種子,材などが混在して化石化している様子が観察されます。そのような産状からムカシカツラが河畔や渓畔付近に生育していたことは疑いがないでしょう。
ムカシカツラは現代のカツラと葉も果実も外見上はほぼ見分けがつかないほどよく似ており,恐らく本種がそのまま現代に生き残ってカツラへと命をつないでいったのでしょう。