『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』 ー文明の悲劇ー
ディオールというメゾンの歴代デザイナーの中で全く次元の違う天才が、ジョン・ガリアーノだった。そう実感させられたのが、2017年のパリで開催されたディオール展でした。
展覧会の副題は『Couturier du rêve』。夢のデザイナーというこのタイトルには、「夢のようなデザイナー」と「夢をデザインする」の二つの意味がカブせられています。オートクチュールという世界を言い表して妙と言うほかありませんが、ガリアーノは正にそんな芸術のイデーを現代に体現したデザイナーではありました。
しかしその現代、高度な複合産業と化した服飾業界の中心にあって、彼のような破天荒な天才は消費され摩耗していくしかない。そんな時代の必然を、映画は残酷に描き出しておりました。
ショーを描く際の映画はマヌカンたちよりも、ジャック・スパロウ※のような虚構の姿に変身してランウェイを歩くガリアーノ自身を、頻繁に映し出します。フィクションに生きるデザイナーの姿を、この映画は捉えているんですね。
舞台が同時に映し出すのは、一旦はフィジカルトレーニングでマッチョに変容した肉体が、アルコール依存症の末に、普通のオヤジ体形にみるみる変わり果てる残酷な過程でした。例の事件でディオールを解雇される以前に、生身のデザイナー自身が既に壊れていたことを、それは物語っています。
蛇足を加えますが、彼の悲劇の原因を「愚かさ」に帰する邦題は無論ミスリードです。が、それを文明の問題でなく、個人の問題に落としこんでしまうベクトル自体が、問題の中心に目を注ぐことを拒むかのような今のメディアのスタンスを映し出している。そんな風に捉えるのは果たして私だけでしょうか。
※ジャック・スパロウ 映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジョニー・デップ演じる主人公。