太陽劇団の軌跡 -2019年11月13日 早稲田大学国際会議場-
先週、今年の京都賞を受賞したアリアーヌ・ムヌーシュキンのワークショップを聞いて来ました。
現代演劇のトップランナーと言ってもいいパリの太陽劇団を率いる彼女の言葉からは、野蛮な貪欲に捉われて平気でウソを吐く現代の大国の指導者たちに対する、火のように熱い嫌悪が噴き出していました。感動的だったのは、かかる現代の狂気に抗うために演劇が必要とするのは、想像力であり悲劇の力であり詩の力である、と彼女が言い切っていたことです。
ワークショップに先立ってビデオで上映された彼女の代表作『堤防の上の鼓手』は、中国古代の洪水と人間の愚かな対立を対置させて描いた作品ですが、それを描くために日本の文楽のスタイルを選んだのは、正しく彼女の詩的な想像力の為せる技でした。
2001年に新国立劇場の柿落としで上演されたこの作品を見たときには、運命的な悲劇が俳優たちの浄瑠璃の人形のような動きと無表情で演じられていたのに驚いたものでした。が、その公演のまさに1週間前に起きた米国の同時多発テロ以来、この18年間にこの世界が陥った情況を見てきた我々が今日、この作品に改めて接すると、むしろ今の世界にこそ、この作品のアクチュアリティがあるのだと思えてきます。俳優の生身の肉体が黒子に操られて人形のような動きで悲劇的な運命に突き進んでいくドラマは、今まさに抵抗しようのない黒い潮流に押し流されていく我々の姿にほかならない、と。