
葉山陽代さんの『天満屋お初最期の一日』
近松の『曽根崎心中』を葉山陽代さんが一人芝居にしました。和太鼓やチェロの和洋混淆のアンサンブルを伴奏にした公演。
冒頭に大太鼓の凄まじい乱れ打ち。強烈な打撃音が緊迫感を煽って走っていきます。近松の心中ものはシェークスピアの戯曲と並んで、恐ろしい速さで観客を運んでいく。とにかく主人公たちは驚くほどのスピードで、運命の坂道を転げ落ちる。その加速度的な疾走感を、太鼓の音が予告しているんですね。
女優の声が聞こえてくるや、これはいったいどこからの声なのか?と一瞬、見当識を失います。そうか、これは心中の後に経験する世界から届いているのか。彼岸からの声に、ぞわぞわと鳥肌が立ちました。
途中、お初の声がギターと会話するような場面があります。彼女はもう人間ではない何かと対話している。そう感じて、また背中をうそ寒いものが走りました。

