三重県の山奥にある「伊賀鉄道」が面白すぎた
田舎のローカル線というと、皆さんは何を思い浮かべるだろうか。
ボロボロの車両や無人の駅、1日数本しかない列車、乗客はジジババか高校生だけで、ほとんどの地元民は車頼りで全く乗らない。廃れすぎて乗っているこっちまでが寂しい気持ちになってくる。
およそこんなイメージではないだろうか。
だが、そんなローカル線の寂しいイメージを奇抜さで払拭する鉄道が、三重県の山奥に存在した。今回は、たまたま訪れたローカル線「伊賀鉄道」が面白すぎたので紹介する。
そもそも伊賀鉄道とは何なのか?
乗車記について書く前に、伊賀鉄道が何で、どこを走っているのかについて解説する。
伊賀鉄道は、三重県の西で奈良県寄りにある、あの忍者で有名な伊賀市を通る鉄道である。
元々、近畿圏一帯と三重県・愛知県を走る近畿日本鉄道(以下近鉄)の路線だったが、2007年に伊賀市が出資する第三セクターの「伊賀鉄道」となった。
そして、走っている場所からして分かるようにど田舎のローカル線である。
地方の過疎・少子高齢化が進む中、苦しい経営を強いられている典型的な田舎のローカル線と考えて良い(と言うと失礼になるかもしれないが)。
私は生まれてこの方鉄オタとして生活してきたのだが、伊賀鉄道は未踏の路線であり、乗り潰し目的とどんな様子なのか気になっていたため、鉄オタの友人を率いてわざわざ乗りに行くことになった。
いざ、乗車
近鉄に乗ること約2時間弱。我々は三重県山間の何もない駅、伊賀神戸(いがかんべ)駅に降り立った。
なんと、移動の道中にスマホで伊賀鉄道の切符を購入できた。伊賀鉄道のHPに記載があるが、「RYDE PASS」というアプリをインストールの上で、1日乗り放題の切符+特典を買うことができる。つまりは、伊賀鉄道の切符は日本中、いや世界中どこにいても購入することができるというわけである。
ただ、1人のZ世代の若者の意見として言うと、アプリのインストールとよくわからん会員登録をわざわざするのは面倒なので、HPから会員登録なんかしなくても買えるようにして欲しいとは思った(友人も同意見)。
さて、近鉄を降りて伊賀神戸駅の伊賀鉄道乗り場に入ると、早速奇抜な看板が目につく。
一際目立つ、伊賀鉄道の車両をあしらった看板が鎮座していた。
なんでも、あの銀河鉄道999の作者松本零士氏がデザインした「忍者列車」なるものがこの伊賀鉄道に走っているらしい。しかも何種類か色の種類まで存在するとか。顔ハメ看板で写真を撮って遊んでいると、電車がやってきた。
癖の強すぎる電車
私達が乗ったのは緑色の電車だったが、なかなかに奇抜な電車が来た。忍者がここまで奇抜に塗装された電車など、全国探してもここだけだろう。
なかなかのインパクトに恐る恐る電車に乗り込み、網棚に荷物を積もうとすると、誰かの忘れ物があった。
忘れ物マスターの私からすると、網棚の荷物というのは非常に忘れやすい。それに今なら降りた人がそこらへんにいるかもしれない。急いで届ければ間に合うかもしれないと思い急いで近寄ると、それは忘れ物ではなかった。
なんと、遠くから見ると忘れ物にしか見えないそれは、網棚に鎮座した忍者であった。ちょっとどういうことなのか理解が追いつかない。全国津々浦々、網棚に忍者が乗っている電車などここだけだろう。しかし、電車の網棚に隠れる忍者など、彼はどういう任務を背負っているのだろうか。
その忍者の横に荷物を置いて座席に座ると、ちょうど電車が発車する。
電車は、ローカル線特有の60km/hにも満たないのんびりとした速度で走っていく。とりあえず、この電車の終点、上野市駅まで行くことにした。
さて、落ち着いて座ると目につくのが、その奇抜な内装である。
まず目を引くのは、ドア上にある立派な彫り物だ。
写真では伝わりにくいが、かなり細かく掘られた立派なものである。それが、各ドアの上全てに貼られている。
続いてその左に目線を移すと、今度は吊り革がぶら下がっているのが見えるのだが、それも凝ったものだった。
普通の吊り革に混じり、手裏剣型の吊り革がしれっと混じっている。そして、吊り革の広告の部分には手裏剣の模様まであるという凝りよう。
さらに窓に目を映してみる。
なんとこの電車、Wi-Fiが繋がる。
Wi-Fiなぞ、東京の電車ですら繋がらないだろうし、新幹線のWi-Fiもほとんど繋がらないというぐらい、日本の鉄道というのは車内でWi-Fiを繋ぐことは難しい。なのに、地方のただのローカル線である伊賀鉄道ではWi-Fiが提供されているのである。一体どこに金をかけているんだ...彫り物、手裏剣型吊り革、車内Wi-Fiと、ローカル線とは思えないほどのクセの強い内装だった。日本全国でここまで奇抜な車内などここだけ(以下略。
乗車券の特典を使いに上野市駅へ
電車は、田園地帯をのんびりと走っていく。伊賀神戸駅からおよそ30分ほどで、上野市駅に着いた。
伊賀鉄道自体はこの先JR線と接続する伊賀上野駅まで伸びているが、今回は伊賀鉄道内の一大主要駅である上野市駅で下車することにした。
上野市は、ここまで忍者を推している通り、忍者の里として観光地されている。市内には忍者博物館のほか、忍者体験ができる施設まであり、日本人だけでなく外国人にも人気の街だ。実際、駅前の食堂でご飯を食べたりしたが、外国人の姿を多く見かけた。
時間的に忍者博物館へ行くのは微妙だったので、昼食をとった後、伊賀鉄道の一日乗車券の特典であった日本酒の試飲をしに行くことにする。
1日乗車券にプラスの特典として、上野市内にある「菊野商店」というお店で日本酒の試飲が出来るという。一日乗車券+特典で値段が¥740。ちなみに、伊賀神戸〜上野市の往復運賃は¥740。元は取れる上に日本酒も飲めるとあっては、酒好きにはかなりアツい切符なのではないだろうか。
注)特典は日本酒試飲以外も選べます。
上野市駅から15分ほど歩くと、店に着く。
店で電子チケットを見せてコインを受け取り、おちょこを貰ってからテイスティングカウンターで日本酒を選んだ。
ラインナップとしては当然伊賀の地酒が並んでおり、家の近所のスーパーにはないようなラインナップなのが良い。日本酒初心者過ぎて良し悪しや好みがよく分からないが、純米吟醸の地酒を頂くことにした。
友人とおちょこを乾杯し日本酒を味わう。
うまい。
コンビニで買う安日本酒と違い、苦くないすっきりとした味だ。貴重な試飲酒を友人のと飲み比べながら味わう。親切な店員さんと話していると、宣伝効果が薄いのか、この切符で来る人は少ないそうだ。つまり、並ぶこともない穴場の試飲ということである。やはり酒好きは今すぐ行くべき場所だろう。
※店舗情報
酒仙閣 菊野商店
営業時間:月〜土 09:00-19:00、日 10:00〜18:00
定休日:日曜日(不定休)
場所:ココ
癖の強い駅とお土産
酒ですっかり気分が良くなったところで上野市駅に戻る。と、その駅舎の外観に愕然とした。
さっきは気づかなかったが、なんと駅の名前が忍者市駅となっている。駅前にレイスのスパレジェクナイがぶっ刺さった駅舎は、上野市駅のローマ字併記がないので、外国人から見たらこの駅はNinjashi stationだと思ってしまうだろう。
先述の通り駅構内にも忍者がいるし、細かいところに忍者があちこちに散りばめられている。これほどに意匠を凝らした奇抜な駅も、日本全国探しても(以下略。
日本酒も飲んだし、そろそろ伊賀神戸に戻ろうという話になったのでお土産を買うことにした。
駅の中に「伊賀鉄ガチャ」というガチャガチャがあり、キーホルダーが販売されていたのでこれを土産とする。
ガチャを回して開けてみると、すごいキーホルダーが出てきた。
なんだこれ。
説明書きによると、地元の伊賀牛忍者丼という名物をそのままキーホルダーにしたものらしい。
こんなものなぜキーホルダーにしようと思ったのか...
とりあえずリュックにつけてみた。
牛丼を写真にしただけのキーホルダーなぞ誰が欲しがるのか、誰が付けたがるのかと思ったが、意外にもそこまで悪くない。パッと見、これが牛丼のキーホルダーとは誰もわからないだろう。
こうして、上野市駅にやってきた伊賀神戸行きの電車に乗り込み、隅々まで忍者を全面に押し出したクセが強い伊賀鉄道の旅は終了した。
まとめ
今回訪れた伊賀鉄道、これまで述べてきた通りかなり癖が強く面白い。それは、伊賀という土地の名物である忍者をこれでもかというほど最大限に生かした鉄道であるからだろう。
しかし、田舎のローカル線には珍しすぎるぐらいここまで奇抜な鉄道会社となったのは、第三セクターに移管されてからである。ということは、伊賀市という自治体が主導して伊賀鉄道を盛り上げたいという熱意があってこそ、ここまで成し得たことではないだろうか。
ここまでアミューズメント性がある鉄道会社は、鉄オタでなくても楽しめそうだ。大阪から1時間半、名古屋から2時間ぐらいで着くので、休日暇で仕方がない人は行ってみてはいかがだろう。意外と楽しいかもしれない。
以上。
ご乗車ありがとうございました(?)。