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社会人3年目のストレス発散旅 in 長野 2日目

長野旅行2日目。朝7時。

ラブホのクソでかベッドで目覚めた私は、普段の仕事の時とさほど変わらない時間に目が覚めたのに驚いた。
ベットから這い上がり、目覚めのシャワーを浴びていると、ある感情が湧いてくる。
髪が長過ぎてウザい。
そういえば、もう一か月半は散髪に行っていない。雑草のように伸び切った髪はいくら冷水を浴びてもひたすらに暑苦しかった。

髪切りてえな。

長野に来てまで考えることではないのだが、やることもないし髪でも切りに行くか、と奮起するに至った。
ドライヤーを回しながらhotpaper beautyを見ていると、長野駅から徒歩10分程度の場所にある美容室が奇跡的に9時過ぎから空いていたので即予約、8時半ごろにチェックアウトして徒歩で店へ向かった。
美容室に行くにあたって、避けようにも避けられないのは美容師との会話である。陰キャのくせに喋るコミュ障として名を馳せる私は、初対面相手には必ずと言って良いほど地雷を踏みまくり、初対面の壁を大砲で破壊するようにしてしか人と仲良くなれないため、かなり身構えて必死に会話の糸口を探すのが常である。だが、今回にあたっては「今回旅行で長野来てるんですけど、どこかおすすめのところとかありますか?」という鉄板トークがあるので会話に困ることはない。初めて行く店にも関わらず全く憂鬱ではないのである。気まずい沈黙にもならず、長野のオススメスポットが聞けるとあって店へ向かって30分ほど歩く私の足は非常に浮き足立っていた。

1時間半後。

あれほどうざったい髪が綺麗に切り落とされ
頭の方はすっきりしていたが、私の心の中はモヤモヤしていた。

美容師と一言も会話できなかった。

「今日はどっから来られたんですか?」の一言でも聞かれようもんなら早口で旅行に来たことを捲し立てようと思ったが、担当した美容師は、髪型のオーダー以外について何も喋らず、ただ黙々と髪を切り続けていたのである。
必然的にこっちから話しかけるしかなかったが、生来の陰キャコミュ障精神丸出しだった私は、容姿端麗でモテオーラ全開という、完全に自分との対極にいる彼に喋りかける気概などなく、下手に「ぼく旅行で長野来たんですけど、どっか行くとこありますか?」なぞいきなり聞こうものならドン引かれること必至であろう。頭の中で、彼の顔が引き攣っているところまで容易にシュミレーションできた私は、髪が全て切り落とされるまでの間、なすすべなく目を瞑って寝たふりをしながら耐えていた。

モヤモヤした気分のまま通りを歩いていると、朝から何も食べておらず、俄然お腹がすいてきた。ちょっとしたものを食べたいなぁなんて思っていると、道端に何やらおしゃれなパン屋を見つけた。
何の気なしに入店し、パンとソルガムティーなるものを注文して店前のベンチで食べる。

なんでもこのお店は信州大学の卒業生がベンチャーとして立ち上げたパン屋らしく、ソルガムという穀物を売りにしたパンや飲み物が購入できる店だった。
そのソルガムという穀物が入っているパン(写真左)、バナナドーナツ、ソルガムティーを購入し、朝の往来が少ない道をぼんやりと眺めながらパンを貪る。
ソルガムという穀物は存在すら知らなかったので、当然食べたことはなかった。なんでも「信州産ソルガム」なるサイトも存在するほどこの長野では特産の穀物らしく、栄養価が豊富で無農薬でも栽培できるとあって、人と環境に優しい穀物らしい。
見た目の雰囲気からはあずきのような印象を受けるソルガムを使ったパンを頬張ってみる。食感はつぶあんのような感じだったが、ソルガム特有の味が引き立っていた。その特有の味はバターとの相性が抜群によく、とても美味しい。
ソルガムティーも初めて飲む独特の味ではあったが、そこまでクセが強いものでもなく、飲み物としては全然アリだなという印象。
20分ほどかけてゆっくりパンを消費して店を後にした。
昨日のラーメン屋といい、やはり美味い店は適当に見つけた店に限る。多分人に聞くより自分で探したほうが早いのではないかと思うと、美容師に観光スポットを聞けなかったことに対する後悔もだいぶ薄らいだ。

さて、腹ごしらえを済ませ長野駅に戻ってきた私は、どこへ行こうか、駅構内を徘徊していた。すると、長野電鉄という昨日宿に行く際に乗車した列車の駅が見えてくる。昨日は権堂駅までの二駅しか乗らなかったこともあり、その先に何があるのか気になった。

乗車した特急列車

湯田中という温泉地に向かうらしいこの路線に乗り、温泉でも入りに行こうと思ったが、帰りの列車の時間もあったため途中の須坂駅で降りてぶらつく事にした。

時刻は正午近くを迎え、私は須坂駅に降り立った。今時の駅としては珍しい有人改札を抜け、駅のコンコースに出てみると、日曜の昼だというのに閑散としており、一瞥する限り近くのスーパーを除いてシャッターを下ろした店ばかりのようだった。
ひとまず駅周辺を散策し、昼時なのもあって地元の名物でも食おうと意気込みあたりをぶらつくことにした。
だが、駅の周りはシャッターが降りた店ばかりで食事ができそうなところは駅前のすぐの場所にあった蕎麦屋のみ。蕎麦は信州の名物でこそあるものの、昨日白馬でざるそばを啜ったこともあり一旦は素通りして駅周辺を歩き回った。
だが、駅から10分ほど歩いても、いわゆる「地元の名店」らしき雰囲気の店はなく、バーミヤンやマックなどのチェーン飲食店はあったが、どこまでもシャッターの降りた商店と閑静な住宅があるのみである。それにここは近所に高校があるらしく、道ですれ違う学生らが、あたりをきょろきょろ見回しながら目的もなくフラフラ歩いている、明らか不審者然とした私に警戒の目を送ってさえいた。
これ以上探索していても店は見つからなさそうだし、職質でもされようものなら面倒なことになる。仕方なしに初めに見つけた駅前の蕎麦屋に入ることにした。
夫婦で営んでいるらしいそのこぢんまりとした蕎麦屋に入り、座敷のテーブルに座る。
メニューを見てみると、なんと蕎麦のほかに日本酒が書かれていた。昼間っから酒が飲める...だと...!?
店内を見回すと、日曜でも働いているらしい作業服を着た人や、スーツを着ている男たちが蕎麦を啜っている。この人らには悪いが、休日特権で昼食飲酒を決め込むことにした。

注文を聞きに来たおかみさんにとろろそばと日本酒を注文する。するとほどなくして奥から大将が出てきて、手近にあった冷蔵庫から酒瓶を取り出してくる。
「亀の海でよかったでしょうか?」
低い声でそう聞いてくる大将に頷くと、お盆に乗ったグラスに大将自ら酒を注いでくれた。

漬物と共にお盆に乗ったグラスを手に取り、一口口に含んだ。

...なんだこれ!?

めちゃくちゃ美味しいぞ!!

普段、酔うためだけに酒を飲んでいる私は、酒の味なんて二の次でひたすら飲み干していたが、この酒は純粋にめちゃくちゃ美味しかった。味としてはやや辛口といったところだが、それでも辛口の日本酒特有のあの苦味にも似た感じはほとんど感じない。かといって甘口というほど甘くもない。ちょうどいいバランスの味だった。
漬物を口に含み、もういっぱい酒を煽る。

またもや適当に入った店でめちゃくちゃうまいものを発掘してしまった。堪らん感動に浸っているとやがて蕎麦が到着する。

ご丁寧にそば湯まで準備されたそばをとろろと共に啜り、また日本酒を飲む。
何と相性の良いコンビかと思わず感涙しそうになりながら、つくづく日本食最高!日本人に生まれて良かったと心から思った。
TVで流れるのど自慢をのんびり眺めながら、ゆっくりと箸を進める。初めはあまりに閑散としすぎた街並みに不安すら覚えていたが、こうして美味いものをのんびり食べることができ、わざわざ来て良かったとすっかり気分が良くなった。
30分以上かけてゆっくりとそばと日本酒を平らげた私は、帰りの特急に間に合うようにそのまま長野駅に戻る。
長野駅では40分ほど時間があったため、お土産コーナーを見て回ることにした。
すると、駅内の商業施設内に地酒が飲める店があるのを発見。さっきの日本酒で飲酒スイッチが入った私は、ここで長野で作られたワインを飲むことにした。

ぼけーと間抜け顔でワインをゆっくりと煽る。味こそはっきり言って普通の赤ワインだったが、さっきの日本酒とそばによるブーストの影響でより一層美味しく感じた。

そうこうしていると、発車時刻が近づいてくる。私は職場への土産を手早く購入し、帰りの特急に乗り込んだ。
名古屋までの3時間、乗車直前に買ったレモンサワーの缶を煽りながらこの旅を振り返る。
結局善光寺や松本城などの観光地には一切行かず、2日間ひたすらあてもなく移動しながら酒を飲んだだけの旅行だったが、1週間の激務を存分に癒すことのできたよい旅だった。
こういう目的を持たずにのんびり移動しながら酒を飲む旅、かなり良いな。またストレス溜まったらどっか行こうかなと心に決め、長野の山を車窓から眺めつつ終点までの眠りについた。

いかがだっただろうか。
このブログの読者にどれぐらい社会人がいるか分からないが、仕事のストレスが溜まって暴れそうになっている人がいたら、ぜひこんな感じで目的もなく知らない土地をぶらついてみはどうだろうか。
次は、寿司でも食いに北陸にでも繰り出したい所存である。

以上。

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