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読書録(安楽死を遂げるまで)

子供の頃は死ぬ夢ばかりを見ていた。
ある時は溺れ死に、ある時は寝たきりのまま死ぬ夢だった。
特に後者は鮮明で毎日少しずつ夢の続きを見るものだから、現実と夢の区別がつかなくなるほどだった。
夢の中での私は、意識はあるが動けないので天井しか見ることができない。
耳は聞こえるけど会話ができない。周りの人に意思を伝えることができず、圧倒的な孤独感の中で早く意識がなくなることだけを願うのだ。周りの人は1日でも長く生きて欲しいと声をかけてくれるのだけれど、ただ生かされている時間は永遠のように長く苦痛でしかなかった。「死とは誰のものか」をその頃からずっと考えていたので、この本を見た時思わず手に取った。

安楽死とは

宮下さんの著書の良いところは「安楽死」をケースごとに細分化し説明してくれていること、そして安楽死の捉え方を地域や人種ごとに比較してくれていることかと思う。また、安楽死を望む人の共通点について書かれているのも良かった。

安楽死の全容

安楽死という言葉が包括する内容を図解にしてみた

この本を読んで知ったが安楽死は総称で、いわゆる「主語が大きく」混乱を招く言葉だと思った。安楽死の広義な意味は「寿命よりも前に(他者または自身の行為により)命を終えること」だと思うが、安楽死が法的に認められていない国やまた合法でも条件を満たさずに他者が行うと当然の如く「殺人」になるので、正直リスクを負ってまで積極的に患者を安楽死させようという医師はあまり存在しないかと思う。

人間は足の骨が折れた競走馬とは違う。
安楽死を合法にしたからとて、都合よく自分(または他人)の人生に幕引きできるわけではないということを知った。(ので安楽死で過剰反応する人にもこの辺りを整理してもらいたい&この本読んでもらいたいなぁ〜と思います!ちなみに人生詰んでるから死にたいみたいなメンタルの問題の場合、医師はかなり慎重になり基本認可されないので安易に死ねないので安心?して欲しい)

自殺幇助を希望する人の共通点

善悪と言う二方向からの判断ではなく、多角的に見て物事の側面を図ろうとする著者の姿勢は非常に好感が持てた。この辺りは面白かった。
著書の中に、「自殺幇助を望む人の共通点は白人・富裕層・高学歴・心配性」と答えてる医師がいた。本の中では、そこに意思の固い人という言葉も付け加えている。また、自殺幇助を希望する人は「人生に満足しているが、耐えたがたい苦痛により自分の意思で思うように生きられない、または意識が保てないなら自分の人生に幕を引きたい」人が多かったことにも触れていた。

著者はスイス・オランダ・ベルギー・アメリカ・スペイン・日本のケースから、なぜ白人に多いのか考察されていて私にはどのラインを「白人」と定めてるのかはわからないけれど本書ではスペインと日本が「白人以外」とされていた。

端的に言うとこの中で語られる「白人」は自身また相手のQOL(決定)を尊重する風土があり、それ以外またはアジアでは家族に決定権があるように見えるとのことだった。おじいちゃん死なないでと泣いてすがりつつも祖父の決定を静かに受け入れる白人の孫娘と、弟が服毒自殺をしたスペイン人の兄が「俺だったら良いけど、あいつのことはずっと面倒見る覚悟があったんだから、勝手に死んじゃダメなんだ!」と声を荒げるシーンが対照的で印象に残った。著者はここで家族の温かみを感じ、白人の考えを「ドライで冷たい」ように感じてとても葛藤されていたようだったけど、私は家族であっても他人に決定権を渡すのは嫌だなぁと思って読んでいた。

日本のケース

最後に日本のケースがでてくるのだけれど、こちらは個人的にとても不快でした。
日本は安楽死(自殺幇助)が合法でないので、どんな形にせよ医師が殺人罪という罪をもって責任を取らないといけない。(報われない…)

3つのケースを紹介されていたけど、そのうち2つは「早く楽にしてあげてほしい」という家族からの希望だったのにも関わらず、事後には「医師に殺された」と供述しているところが日本らしいなと思った。

いざ警察や弁護士に聴取されると「自分の決定(自分が幕引きの指示をした)」と言えなくなってしまう気持ちはわかるが、わかるからこそ「だったら死ぬ権利は本人にあるべきだ」と思うし、覚悟も無しに「楽にしてあげてください」と言ってはいけないよなぁ、とますます思ったのでした。


安楽死を遂げるまで 宮下洋一さん著


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