幼児教育・保育の無償化が始まるけど。
今年の10月から幼児教育・保育の無償化が始まります。
「無料」の2文字。どんな分野であれやっぱり魅力的ですよね。
今回の制度変更は、今まさしく高い金額を支払っている親御さんたちにとってまさに救いの知らせになるのではないでしょうか。
他方、その魅力とは裏腹に、この制度には数多くの課題が残されていることも見逃すことはできません。
今回のしゅーいちでは、制度の概要を確認した上で、どんな課題が残されているのかについて見ていきましょう。
1. 制度の概要
今回の制度について、まずは施設の種類別に制度の概要をまとめてみました。
1. 幼稚園 ・ 認可保育所 ・ 認定こども園 ・ 企業主導型保育事業
対象:3〜5歳児クラス(全員)、0〜2歳児クラス(住民税非課税世帯のみ)
内容:無料
▼注意点
・通園送迎費、食材料費(副食費含む)、行事費等は保護者負担。
・子ども・子育て支援新制度の対象とならない幼稚園は月額25,700円まで無償
2. 認可外保育施設 など
対象:3〜5歳児クラス(全員)、0〜2歳児クラス(住民税非課税世帯)
内容:3〜5歳は最大月額37,000円まで無償。0〜2歳は最大月額42,000円まで無償
▼注意点
・無償化の対象となるためには、就労をしているなどの理由で「保育の必要性の認定」を受ける必要がある。
3. 幼稚園の預かり保育
対象:3〜5歳児クラスで幼稚園を利用している人
内容:最大月額11,300円まで無償
▼注意点
・無償化の対象となるためには、就労をしているなどの理由で「保育の必要性の認定」を受ける必要がある。
4. 障がい児の発達支援施設
対象:3〜5歳児クラス
内容:無料
▼注意点
・①との併用可能。
・食材費等は保護者負担。
施設によって若干の差はありますが、おおよその要点は、
(1)認可施設に通う3歳から5歳の子どもの保育料が原則無料。
(2)認可施設に通う0歳から2歳の子どもの保育料は住民税非課税の世帯に限って無料。
(3)認可外施設に通う子どもの保育料は、保育の必要性が認められれば一定の補助あり。
という3点にまとめられます。
また、内閣府が公開している特設ページでは家庭の状況に合わせてシミュレーションをすることもできます。対象となる方はぜひ確認してみてくださいね。
■ 細かい疑問を解決したい方
→ こんなときはどうするの?(Q&A)
■ シミュレーションをしたい方
→ うちの子の場合は?
■ 制度の基本を知りたい方
→ 幼児教育・保育無償化について知る
2. 制度の課題
該当世帯にとっては恩恵のある幼児教育・保育無償化制度。
しかしこの制度が形成される過程においては様々な課題が指摘され、またその課題は今でも解決できているとは言い難いという状況にあります。
以下では、制度の課題を指摘する2人の論者の記事を紹介し、その要点を確認していきたいと思います。
■ NHK解説アーカイブス 藤野 優子氏(2017.12.8ー2018.6.22ー2019.2.21ー2019.5.13)
無償化の記事をおよそ1年半に渡って連載したものとなっています。
ここで特に問題とされているのは以下の3点です。1つずつ確認してみましょう。
(1)政策の優先順位はこれで良いのか
(2)教育・保育の質が軽視されていないか
(3)財源は適切か
まず「(1)政策の優先順位はこれで良いのか」です。
無償化の他に優先されるべき問題について藤野さんはこのような例を挙げます。
・特に0-2歳児の待機児童が未だ多く、質の確保されていない認可外の保育園に通う子どもも大勢いる。
・保育士の処遇の改善や働く場の環境に財源が割かれておらず、保育士不足が深刻度を増している。またそのことが保育園不足や待機児童問題につながっている。
・幼稚園や保育園の利用料はもうすでに所得に応じた負担に設定されているため、一律で無償化すれば高所得の人ほど恩恵を受けるような制度になる。
このような背景がありながら、3−5歳児のみをメインに無償化することが果たして今の保育現場の課題を解決することにつながるのか、というわけです。
次に、「(2)教育・保育の質が軽視されていないか」についてです。
海外では、教育や保育の質に関する調査を行い施設ごとの評価を「見える化」した上で無償化を進める国が多くなってきているのに対し、今回の日本の無償化はそのような調査検討が進んでいないまま行われていると指摘します。
指導監督基準も十分に満たさないような施設までも無償化してしまうと、悪質な施設までも許容することになってしまい、政策効果を高めることが難しくなってしまうのではと懸念を示します。
最後に「(3)財源は適切か」についてです。
今回の無償化の財源について、同じタイミングで始まる消費税の引き上げによる増収分がほとんどだと言います。
この点について注意が必要なのは、これは本来消費税の増収分は借金の返済に充てられるはずのものだったという点です。
このような方針の転換は、借金の負担をまさに今幼児教育や保育を受けている世代に押し付けることになるのではないかと指摘します。
■ 日本総合研究所主任研究員 池本 美香氏(2019.9.5)
こちらは日本総研による保育園無償化の記事(前編・後編)です。
第1に、「全世代型社会保障」を目指した制度でありながら、逆に教育格差を押し広げるものとなり得ることが指摘されています。
先ほども確認した通り、今回の無償化は高所得の人ほど恩恵を受けやすい制度となっており、実際同じように保育を無償化した韓国では、今まで保育料に充てていたお金を習い事に充て始める高所得者層が急増したといいます。
そしてそのことと対をなすように、今回の制度が保育サービスを受けていない世帯への支援にはならないという点についても指摘されます。
すなわち、両親フルタイムで働いて子どもを園に預ける人がどんどん優遇され、例えばゆっくりリフレッシュしたり求職活動をしたりという余地がますます狭まっていくということです。
日本総研の池本さんは、これらの問題によって、この国で子どもを産み保育していくことについて親が暗い見通ししか持てなくなることを懸念しています。
3. おわりに
10月から始まる幼児教育・保育の無償化。
無償化の面だけを見ればポジティブなものに映りますが、全体としてみると様々なところに負担をかけた制度であることが見えてきました。
就学前の子どもやその親たちの生活がどうあって欲しいのか、その点について今一人一人の態度が問われているのかもしれません。
皆さんは、いかがでしょうか?
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