LUT(ラット)とは?動画編集における基本と応用テクニック
映像編集において、色やトーンの調整は仕上がりを大きく左右する重要な作業です。映画のワンシーンのような美しい映像や、心に残る雰囲気を演出するCMなど、その背景には緻密なカラー調整が欠かせません。その中で、効率的かつプロフェッショナルな仕上がりを可能にするのが「LUT(Look-Up Table)」というツールです。
LUTは、映像の色味やトーンを瞬時に変えるためのプリセットであり、初心者から上級者まで幅広い映像クリエイターに愛用されています。特に、Adobe Premiere Proなどの動画編集ソフトでは、LUTを活用することで、カラー補正からスタイリッシュなカラーグレーディングまで簡単に実現できます。
本記事では、LUTとは何かを基礎から解説し、実際の動画編集における応用テクニックについても掘り下げていきます。LUTを活用すれば、映像の仕上がりが驚くほど変わるだけでなく、作業効率も飛躍的に向上します。「映画のような仕上がりにしたい」「プロ並みの映像を目指したい」と思っている方にとって、LUTは欠かせないツールとなるでしょう。
これから、LUTの基本概念から実際の適用方法、さらにはカスタマイズのポイントまで、動画編集に役立つ知識を具体的にお伝えしていきます。初心者の方も安心して読み進められる内容になっていますので、ぜひこの機会にLUTをマスターし、映像制作の幅を広げてみてください。
1. LUTとは?
LUTは「Look-Up Table」の略称で、映像の色やトーンを変換するためのプリセットのことです。簡単に言うと、映像の色調や雰囲気を素早く変更するためのツールであり、映像制作におけるカラー調整の基本となる存在です。
映像制作では、LUTを使用することで次のような効果が得られます。
カラー補正: 映像内の色域を調整して、全体のバランスを整える作業を指します。撮影時に使用したカメラの設定や照明条件によって、映像の色味が偏ることがありますが、カラー補正を行うことでこれを修正し、映像の要素が視覚的に調和した状態を作り出します。
カラーグレーディング: 映像全体のトーンや色彩を調整して、特定のスタイルや雰囲気を付加する作業。たとえば、映画のようなシネマティックな効果や、温かみのあるトーンなど、クリエイティブな表現が可能です。
これだけではよく分からないと思いますのでもう少し詳しく解説していきます。
1.1 カラー補正
まずは以下の図を見てください。
上記の図は色の領域(色域)を表した図で、「この規格ならこの範囲の色を出せます」というものです。
・S-Gamut3:ソニーが定義した色域
・S-Gamut3.Cine:ソニーが定義した色域
・ITU-R BT.2020:HDRの国際規格
・DCI P3:デジタルシネマ規格
・ITU-R BT.709:HDTVの国際規格
例えば、S-Gamut3の色域を持つカメラで撮影した場合、上記図の黄色枠の範囲の色が収録できていることになります。
ではここで少し考えてみましょう。
カメラ①「S-Gamut3の色域のカメラ」
カメラ②「ITU-R BT.2020の色域のカメラ」
それぞれで撮影した映像をシーケンス上に以下のように並べます。
これらの素材の色味をまとめて調整するために、カメラ①、カメラ②の上のレイヤーに調整レイヤーを置き、この調整レイヤーにて色味を調整するとしましょう。
上のように調整レイヤーのLumetriカラーを調整して色味を調整します。
ちょっと待った!!
よくよく考えてみてください。カメラ①とカメラ②は別の色域であるにも関わらず、調整レイヤーでまとめて彩度やコントラストを調整しても同じ結果にはなりませんよね?スタート地点が違いますもんね?
つまり、、、
編集する時にまとめて同じように色コントロールをする際にはそもそものスタート地点を揃えてあげる必要があるということです。
この時に使用するものがLUTだというわけです。
通常は先程の色域図の青枠「ITU-R BT.709」に変換して編集を行います。聞いたことがあるかもしれませんが、通称Rec.709と呼ばれています。
その際に活用するLUTが、各カメラメーカーから配布されている709変換LUTです。
別カメラで撮った素材でも、素材に合わせた変換LUTを最初に行うことで、編集で色コントロールする際に適切な調整が行えるわけです。
※最初からRec.709で撮影している場合、この作業は不要です。
1.2 カラーグレーディング
LUTは、カラーグレーディングを行う際にも非常に効果的なツールです。カラーグレーディングとは、映像の色味やトーンを調整し、特定のスタイルや感情を引き出すプロセスを指します。映画のようなシネマティックなルックや、暖かい色味の映像を作り出すといった演出が可能です。通常はカラーグレーディングの際にはトーンを細かく調整する必要があり、色コントロールをしっかり勉強した上で行わなければ好みの色味にはなかなか近づけることができません。しかし、LUTを使うことで誰でも簡単にプロクオリティの色コントロールができるようになります。
1.3 LUTを使ったカラーグレーディングの特徴
1.3.1 スタイルの一貫性を実現
LUTを適用することで、複数の映像クリップに同じカラースタイルを適用できます。これにより、全体の統一感を保つことができ、プロジェクトの完成度が高まります。
1.3.2 効率的なワークフロー
LUTはプリセットのようなもので、あらかじめ設定された色変換を一瞬で適用できます。複雑な調整を手動で行う必要がなく、時短にもつながります。
1.3.3 自由なカスタマイズ
LUTを適用した後に、さらに細かな調整が可能です。例えば、彩度やコントラストを調整して、自分の映像にぴったりの仕上がりを作ることができます。
2. LUTのメリットと活用例
2.1 効率的な作業
LUTを使用することで、色調整を短時間で完了できます。一度設定されたLUTを適用するだけで、プロフェッショナルな仕上がりが実現します。
2.2 一貫性のある映像
シリーズものや複数の映像を統一感のあるトーンに仕上げる際に、LUTは欠かせません。同じLUTを複数のクリップに適用すれば、色味を統一できます。
2.3 映像のクオリティ向上
LUTを使うと、ログ映像などフラットな映像が鮮やかに仕上がります。特に、映画のような色合いや特定のムードを演出する際に効果的です。
3. Premiere ProでのLUTの使い方
3.1 LUTを適用する方法(カラー補正)
1.1節で解説した色域の変換の方法です。
3.1.1 Premiere Proでクリップを選択します。
3.1.2 「Lumetriカラー」パネルを開き、Lumetriカラーの「基本補正」セクションを探します。
Lumetriカラーパネルがどこにも出てこない場合はパネルがオフになっている可能性がありますので、左上のツールバーの中のウインドウ(W)⇒Lumetriカラーにチェックマークが入っているかを確認してください。チェックマークが入っていればOKです。
3.1.3 Lumetriカラー⇒基本補正⇒LUT設定の中から任意の項目を選択してください。カメラメーカーが提供しているLUTなど、ダウンロードしたLUTを使用したい場合はここの参照を押すことで使用することができます。
3.1.4 映像に適用され、リアルタイムで結果を確認できます。ここで適用されたLUTは1.1節で解説した色域の変換に当たります。
3.2 LUTを適用する方法(カラーグレーディング)
1.2節で解説したカラーグレーディングの方法です。厳密に言えばこちらの方法も2.1節のカラー補正に当たるのですが、今回はカラーグレーディングのプリセット適用という観点で解説します。
3.2.1 Premiere Proでクリップを選択します。
3.2.2 「Lumetriカラー」パネルを開き、「クリエイティブ」セクションの中のLook項目を探します。最初は「なし」になっています。
3.2.3 Lookの中から好みの項目を探しましょう。
3.2.4 Look選択画面下にある調整項目を調整して好みの色味に整えれば完成です。
撮影素材を2.1節で解説したLUT適応でRec.709に変換した後、本節のLookを使って色を整えると良いでしょう。
4. LUTを使用する際の注意点
4.1 LUTは万能ではない
LUTはあくまで「プリセット」に過ぎません。映像によっては、適用後に微調整が必要な場合があります。明るさやコントラストのバランスに注意しましょう。
4.2 適切なLUTを選ぶ
すべてのLUTがすべての映像に適しているわけではありません。目的や映像の雰囲気に合ったLUTを選ぶことが重要です。
4.3 過度な適用はNG
LUTを過剰に使用すると、不自然な色合いや過飽和な映像になる可能性があります。適度な調整が鍵です。
5. LUTの作成とカスタマイズ
Premiere ProやDaVinci Resolveでは、自分でLUTを作成することも可能です。色調整を行った映像を基に「LUTとしてエクスポート」すれば、独自のLUTが完成します。これを使用すれば、他のプロジェクトでも同じ調整を簡単に再現できます。
まとめ
LUT(Look-Up Table)は、映像編集における色やトーンの調整を効率化し、映像の仕上がりを大きく向上させる強力なツールです。その基本的な役割は、映像全体の色味やトーンを瞬時に変換することで、カラー補正やカラーグレーディングのプロセスを簡略化しながら、より一貫性のある仕上がりを実現することにあります。
LUTの導入によって、映画のようなドラマチックな色彩を付加したり、自然な色味に補正したりと、用途に応じた柔軟な表現が可能になります。特に、Premiere Proなどの動画編集ソフトでは、事前に用意されたLUTを適用するだけでなく、自分の作業環境や好みに合わせたLUTをカスタマイズすることもできます。これにより、クリエイターとしての個性を映像に反映させやすくなります。
一方で、LUTの使い方を誤ると、映像が不自然になったり、意図しない仕上がりになってしまう可能性があるため、基本的な操作方法や調整のポイントを理解することが重要です。適切なLUTの選択と調整が、映像の完成度を左右すると言っても過言ではありません。
本記事を通じて、LUTの基本的な役割から応用テクニックまでをお伝えしました。LUTの活用に慣れれば、作業効率が向上するだけでなく、映像に新たな生命を吹き込むことができるようになります。これからLUTを使って動画編集に挑戦する方にとって、この知識が一助となり、より魅力的な映像制作を楽しんでいただけることを願っています。
映像のクオリティをさらに高めるために、LUTを積極的に取り入れてみましょう。それは、あなたの作品をワンランク上の仕上がりに導く鍵となるはずです。
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