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【論文解説】ヨーロッパサッカーの全パス分析から読み解く「同文化優位」の真実
私たちは職場や学校など、さまざまな場所で「チーム」をつくり、一緒に目標を追いかけます。そのとき、文化的背景の違いはどのように影響するのでしょうか?とくに「同じ文化同士」のほうが自然に協力し合う、いわゆる「文化的ホモフィリー」(相手が自分と似ていると感じるほど、その人とつながりやすい傾向)は、本当に強力なのでしょうか。
本記事では、ヨーロッパのトップレベル・サッカー選手たちを対象にした研究をもとに、彼らが実際の試合中に「パスをどう選択しているか」を精密に分析し、「同文化同士がどれほど強く協力するのか」を明らかにした最新論文をご紹介します。
研究の背景
「文化的ホモフィリー」とは、ざっくり言うと「自分と同じ文化的背景をもつ人に対して、より親近感をもつあまり、一緒に行動しやすくなる」という現象のことです。たとえば同じ国出身だと互いに言語や習慣が似ていて、コミュニケーションが取りやすいと言われます。ただし、プロスポーツ選手のように高い技術と明確な目標(勝利や得点)を共有している集団では、個人の文化的好みよりも「チームとしての勝利」が最優先されるはずです。果たしてそうした“超一流”のチームでも、依然として「同文化同士」を優先するような行動(=パスの偏り)は続くのか? これを解明するため、ヨーロッパのトップ5リーグ(イングランド、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン)の一流選手たちの試合での全パスデータを精査しました。
論文の発見
同文化同士のパス率は約2.42%多い
結論から言うと、同文化(同じ国籍・同じ言語圏・植民地・連邦の歴史的つながりがある など)の選手同士は、それ以外の組み合わせよりも、およそ2.42%多くパスを出し合っていました。チーム全体の構成や監督の選手起用の影響を取り除いても顕著
監督の采配やポジションの違いなど、選手個人には直接コントロールできない要因を調整したあとでも、この「同文化同士のパスの偏り」は依然としてはっきり確認されました。文化的要因による「パスの多さ」は意外と大きい価値
金銭価値にすると、同じ文化の選手にパスが集まる効果は、選手の市場評価(移籍金額)にして10%以上もの差に相当するほど、明確な行動の偏りであることが分かりました。「同じ文化」がチーム内格差を生む?
さらに、同文化の人数が多いグループにいる選手は、少数派よりもパスが多く集まりやすい、という結果も出ています。つまり「同じ文化の仲間が多いほど」互いにパスを出し合って、そのグループの存在感がチーム内で高まるようです。
なぜ「同文化バイアス」が起こるのか
論文では、この「同文化バイアス」がなぜ起こるのかを検討しています。大きくは「コスト削減(やりやすさ)」か「自分たちの仲間びいき」か、という議論です。
コスト削減(やりやすさ)説
同じ言語・文化だと意思疎通しやすいなど、客観的に見てパスの失敗リスクが下がり「チーム全体の得になる選択」として同文化の仲間を選びやすい。試合中、重要な場面ほどこの傾向が強まっていることが観察されました。仲間びいき(フェイバリティズム)説
「あいつは自分と同じ文化だから優先したい」と、チームの利益というより“好き嫌い”でパス先を決める偏りも考えられます。しかし本研究では、「数が少ない側(少数派)だからこそパスを回したがる」という結果は出ませんでしたし、一緒に過ごす時間が増えるほど同文化バイアスが“むしろ強くなる”ことも観察されました。これらは、単純な仲間びいきだけでは説明しにくい、と指摘しています。
このことから著者らは、「同文化同士の方がコミュニケーションが楽になり、『チームにとって合理的』な選択としてパスが集まりやすい面が大きいのではないか」と推測しています。
まとめ
同じゴールに向かう「超一流」でも、文化的なつながりは強力な協力要因となり得る。
ヨーロッパの最強リーグに集まるスター選手たちでさえ、同じ文化的背景を持つ仲間にパスを送りやすい現象が、客観的に数字で表れました。多様な背景をもつチームでは、文化的な壁をいかに埋めるか、あるいはコミュニケーションコストを下げる仕組みをつくるか――。この論文は、私たちの組織マネジメントでも役立つヒントを与えてくれそうです。
参考文献
Békés, G., & Ottaviano, G. I. P. (2025). Cultural Homophily and Collaboration in Superstar Teams. Management Science. Published online in Articles in Advance 20 Jan 2025. https://doi.org/10.1287/mnsc.2022.01799