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【短編小説】隙間のない家

伯母が死んだ。 母の妹である伯母とは特に思い出とも呼べるような交流も無かったので、両親にそう告げられても、特に悲しいとも思えなかった。真剣な顔で私にそう告げた父の隣に座っていた母も、妹が死んで悲しいとはとても思っていなさそうな顔をしていた。安堵のような、諦めのような、とにかくそういう顔をしていた。 まだ小さかった頃は、伯母はいつも母方の実家にいた。けれど、家族の集まりに参加するわけでもなく、基本的に部屋に閉じこもっていた。飲み物や食べ物を取りに来た時にキッチンで見かける程度

    • 【短編小説】カケアミ

      カケアミ、というものを知っているだろうか。 イラストの背景や影などで濃淡を表現する技法の一つだ。一定の長さで描いた平行線の集まりを、角度を変えて重ね合わせることで濃淡が表現できる。 それを教えてくれたのは、学生時代の同輩だった。 漫画家を目指していると語っていた彼女は、私のノートの片隅を見て「カケアミみたい」と呟いて、それが何かを教えてくれた。 ノートの片隅に線を書く、というのは私の子供の頃からの手癖だ。特に意識しているわけでもなく、考え事をしたり、ぼんやりしている時に気が

      • わたしの恥ずかしい夢

        作家志望で、小説を書いている。 そう言うと、凡その人は「すごいね」と言ってくれる。 初めて物語を書いたのは、確か小学一年生の時だった。3歳下の妹のために書いた童話めいた短い物語。小説というよりは、絵本のつもりで書いた。 現物はもうとっくに捨ててしまっているはずだが、内容は勿論、書いている時の気持ちもいまだに鮮明に覚えている。 親に紙をどっさりもらい、色鉛筆を使って無我夢中で文字を書き、それが伝わるように絵を描いたあの時の高揚感。 それまでごっこ遊びでしか浸れなかった世界を、

        • 青に溶ける《下》短編小説

          青に溶ける《上》はこちら  アオがいなくなった俺の生活は、とても充実しているとは言い難かった。今思うと、当時はそれなりに楽しいと思ってはいたが、苛立ちもストレスも些細なことも全てアオへの暴力と暴言で発散していたおかげで、酷く暴力的なガキ大将になっていた。俺と同じくらい負けん気が強いか、ヘラヘラおどおどとした奴だけが残り、後は遠巻きに嫌な顔をするばかりだ。  当然のように、選べる高校など無かったが、進学しないなら漁に出すと脅され、嫌々地元の底辺校として有名な高校へ入学した。親

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          青に溶ける《上》短編小説

           アオとの再会は、俺に十分すぎるくらいの屈辱を与えた。  山を背に、海を臨む港町で俺とアオは育った。  俺の家は漁師で、小さな町に住む人々のほとんどは当たり前に海の恩恵を受けている。その中で、祖母と暮らすアオは山のほぼ頂上に住み着き、滅多に町に降りてくることもない。自分の祖母に連れられるまで、俺はそこに人が住んでいることすら知らなかった。ボロボロの、今にも崩れてしまいそうな平屋はさながらお化け屋敷で、小学生だった俺は普段の勝気さが引っ込んでしまい、たまらず祖母にしがみついて

          青に溶ける《上》短編小説

          気の抜けたコーラのような【短編】

          コーラをよく飲む。 赤と黒のコントラストが眩しいペットボトルからしゅわしゅわと騒がしい液体をコップに移す。中途半端に残ったペットボトルを、蓋も閉めずに机の隅に置く。 ほとんどの人から「気持ち悪い」と言われるが、炭酸の抜けたコーラが好きだ。 甘ったるいコーラはなんとなくザリザリとしている気がして、口の中に不快感が残るが、何の刺激もない歯の溶けるような甘さは不思議な心地よさがある。 元々炭酸が苦手ということもあるが、何でも甘い方が良いと思っている。刺激の無い、甘いだけの日々。

          気の抜けたコーラのような【短編】