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0826:それでもシリコンバレーは世界の中心 100億円調達した北欧企業(日経ビジネスより)

米国の産業地図が大きく塗り替えられようとしている。シリコンバレーから企業や人材、マネーが抜け出し、テキサスやアリゾナなどの内陸部で化学反応を起こしつつある。その結果生まれるのが、EVやエネルギー、バイオなどの新たな集積地だ。一方のシリコンバレーも、幅広い地域や業種での構造変化を加速させる役割を強めている。米国各地、さらには中国やアジアの現場から、企業の新たな生態系を探る。 (写真:Steve Proehl / Getty Images)
これまでテキサスやアリゾナなど、「ネクスト・シリコンバレー」と期待されるエリアの活況ぶりを見てきた。では、シリコンバレーがこのまま衰退してしまうかというと、そうではない。シリコンバレーでアメリカンドリームを実現する。フィンランドのオーラヘルスはそれを実現したスタートアップだ。指輪型のヘルスケアデバイスを提供する同社はシリコンバレーに活動拠点を移してから、100億円以上もの資金調達に成功。サンフランシスコ市内のオフィスで世界市場への戦略を加速させている。

コロナ禍で多くの企業がオフィスを閉鎖し、エンジニアが街を去ったシリコンバレー北部のサンフランシスコ市内。2021年8月、市内にあるスタートアップの幹部を中心に30人がオフィスに集まった。新型コロナウイルスの感染拡大以降に入社したスタッフも多く、実際に会うのは初めてという人も少なくなかった。

 このスタートアップは今シリコンバレーで注目されているフィンランド発のスタートアップのオーラヘルスである。13年にフィンランドでノキアのエンジニアらが起業した後に欧州を中心に事業を展開してきたが、18年に米国に本拠を移転。19年にシリコンバレーのオフィスを構え業務を本格化しようとした矢先、新型コロナの感染が拡大した。

図1

オーラヘルスが提供しているのは「オーラリング」と呼ぶスマートリングとアプリ。指輪型が特徴で、体温、加速度、赤外線などのセンサーを搭載している。センサーが常に指に密着しているため、体温や脈拍を正確に測定できるという。

 最大の売りが睡眠状況の把握である。就寝時の動きや脈拍を測ることで、実際に何時に寝て起きたのか、深い眠りか浅い眠りかなどを把握できる。1回の充電で5日程度は着けたままでよく、睡眠状況を漏らすことなく記録できるのだ。

図2

コロナ禍を機にスポーツ業界を中心に、全メンバーの体調を正確に管理したいというニーズが高まった。オーラリングはその実現手段として採用例が増えている。巨額調達に成功したのもそうした実績もあるからだ。

 例えば全米バスケットボール協会(NBA)では、コロナ禍からの復活に向け、加盟チームの選手やスタッフに配っている。オーラはNBAに2000以上のデバイスを納入した。詳細は非公表だが、コート上や就寝時も含めたリアルタイムの健康管理に活用している。メジャーリーグやF1のレーシングチーム、東京オリンピックに参加した、サーフィンの米国チームなども採用している。

セールスフォースやエーザイも出資

もちろんシリコンバレーに来れば誰でも成功できるわけではない。大躍進のキーパーソンが現在のCEO(最高経営責任者)であるハープリート・シン・ライ氏である。

 ライ氏は米モルガン・スタンレーの投資銀行部門、米ヘッジファンドのエミネンスキャピタルでの勤務経験がある。17年にオーラヘルスの社長に就任。18年にCEOに就任し、本拠をフィンランドからシリコンバレーに移した。

 ライ氏のノウハウが生かされたのがやはり資金調達だ。オーラは13年の創業後は自国フィンランドや英国のベンチャーキャピタル(VC)を中心に資金を調達していた。シリコンバレーに本拠を移してからは、20年3月のシリーズBで2800万ドル(約30億円)、21年5月のシリーズCで1億ドル(約110億円)と巨額調達に成功した。

 スタートアップ情報を提供する米クランチベースによると、1億ドルのシリーズCでは、シリコンバレーに本拠を置く米セールスフォース・ドットコムのマーク・ベ二オフCEOなど17の投資家が資金を投じた。メインとなる投資家のリードインベスターは7社だ。VCとしては米カリフォルニア州サンフランシスコ、同ロサンゼルス、米ニューヨーク、シンガポールの6社、そして日本の製薬会社のエーザイが名を連ねている。

シリコンバレーの人材も吸収

オーラは資金だけでなく、シリコンバレーの人材リソースも吸収していく。

図3

21年5月、業界で有名な日本人がオーラに加わった。腕輪型のヘルスケア端末を開発する米フィットビットの起業に参画した熊谷芳太郎氏である。同氏らはフィットビットを年間売り上げ1500億円もの企業へと成長させた。そしてグーグルはフィットビットを21億ドルで買収した。21年1月に買収が完了した後は、グーグルのフィットビット部門の幹部として勤務していた。

 オーラはヘルスケアデバイスの市場開拓にたけた熊谷氏に白羽の矢を立て、何度もアプローチしたという。そして21年5月、オーラのCEOとCOO(最高執行責任者)の補佐役として参画することになったのだ。

 熊谷氏以外にも、ヘルスケアのハードウエア用のアプリのエンジニア、日本語化に強いエンジニアなどをシリコンバレーで獲得していった。熊谷氏は「シリコンバレーは様々な分野の優秀なエンジニアをすぐに見つけることができる。これはほかのエリアではあり得ない」と説明する。

 現在、オーラヘルスは米国市場の次として、22年春以降の日本市場への参入を検討しており、熊谷氏をリーダーに事業計画の策定に乗り出している。「フィンランドのスタートアップがコストが安価だから米国の中部にいきなり来て、資金とエンジニアを獲得できるだろうか。それは無理だろう。オーラが注目され、資金や人材を獲得できたのはシリコンバレーに来たからこそ」

 熊谷氏はオーラのようなスタートアップがシリコンバレーに本拠を持つメリットをこう語る。シリコンバレーは資金や人材獲得の面で「世界の中心」であり続けるだろう。

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00339/081700003/

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