見えない権利関係者の不動産売却
予約不要不動産相談会でご来場されたご相談者のお話です。
お客様自身は、底地をお持ちの土地所有者さんでした。状況は、対象地の敷地には借地権付き建物が建っていましたが、築後50年以上経過している建物で、しかも相当長い間空き家になっていました。空き家の状態は、一部、屋根もなく半分崩れかけている危険な状態でした。繁茂も土地全体に広がっていました。土地所有者であるご相談者は、一日でも早く売却を望んでいましたが、そこには大きな問題がありました。
まず、権利関係の点で、借地権付き建物の所有者が行方不明であること。また、建物は、第三者に貸していたのですが、その賃借人も行方不明の状態で、しかも荷物が放置されていました。
このような理由から、売却したくても、手がつけられない状況だったのです。
底地権者の立場からすると、建物賃貸借契約について、当事者ではないので相手と交渉する権利はありません。
また、今回の案件は、ご相談者本人も相続人の立場で、相手の権利関係者も被相続人が当事者でした。
被相続人である親は、十数年前に亡くなっていることから、時間は相当の期間経過していることになり、建物所有者も、借地権者も生存している確率は限りなく低いことになります。
私が最初にお話を伺ったときに、直感的には、既存建物は土地所有者が解体して売却するしか方法はないと。考えていました。また、時間の経過からしても、借地権者および、賃借人が生存してないということは、推測はできましたが、やはり所有権、賃借権の相続という強い権利があるので、客観的な証拠を慎重に集めて、対処するしかないのも事実でした。
調査をして分ったことは、
1.対象地に建物登記が見当たらない。
2.建物所有者は、ご相談者の被相続人の知り合いであって、既に死亡していること。ただ、相続人の存在は不明でした。
3.賃借人の子供(相続人)が独身で生活保護を受けていて、亡くなった際に身柄引き取り手の先として、ご相談者に連絡があったこと。
ご相談者さんは、これまで、何度となく、不動産会社や弁護士先生に相談してきたらしいのですが、心配が払拭せずに、話を進める決心が付かなかったようです。
迷うお気持ちも分りましたので、私が関わってはっきりさせたのは、次の内容になります。
1は、建物を解体しても、滅失登記は必要がないこと。
2は、建物所有者の相続人の存在を調べる必要があること。
3は、賃借人は相続人も含め亡くなっていること。
1は、念のために既存建物が、登記されていない旨の調査報告書を、土地家屋調査士先生に作
成いただきました。
2は、弁護士先生から知恵をいただき、建物の朽廃による、建物収去土地明渡請求を公示送達で行い、その後、土地所有者の負担と責任で建物を解体撤去することとしました。
3は、ご本人が直接行政から聞いたので、クリアとしました。ただ、念のため、2のあとに、賃料不払いを理由に賃貸借契約の解除を公示送達で行う方法を選択しても良いと思います。
2週間が過ぎ、当然公示送達後に相手が現れる訳もなく、公的にも結果を出すことになりました。
こうして、これまでの結果から総合的に、ご相談者の費用と責任で建物を解体することを決心していただきました。
十数年にわたり、朽ち果てて繁茂した空き家が存在していましたが、建物を解体撤去し、見栄えの良い土地に生まれ変わり、無事に売却をすることができました。
私は、権利関係さえクリアになれば、充分な価格で売却ができることを、強くご相談者さんに語り、ひとつひとつの問題点や疑問点をクリアにしたことから、最終的にはご相談者さんも、それを信じて、私の提案に対して、ご決心いただいたのかなと思います。
今回の件は、別の不動産コンサルタントにも同じようにできたのかなとも思いますし、一方で、私がお手伝いすることで、お客様から信用していただいて、残置物撤去と建物解体という最終判断をしていただいたという、自負もあります。
ただ、また同じようなことができるかは、その時になってみないと分りませんが、ハードルが高い案件の場合は、自分にしかできないのだ。と、自分を信じてベストは尽くしたいと、常に思っています。