命題:これは祖母あるあるなのか。

世の「おばあちゃん」たちは、孫の胃袋はブラックホールのごとく限界がないモノだと考えがちだ。

世の真理のように言い切ったが、この結論を導くのに用いた調査サンプルはたった一件である。

何を隠そう、僕のおばあちゃんである。

先日、久々に祖父母を訪れた。
祖父母宅は、実家から二駅の距離。世の情勢は相も変わらず落ち着かないが、長らく顔を見せておらず、寂しがっていたそうなので出向くことにした。自分が顔を見せないことで寂しがってくれる相手なんぞ、世に数えるほどしかいないだろう。とても希少だ。

再開の挨拶を交わすや否や。
「もうご飯食べるでしょ?」
時刻は15時である。祖母よ、そのご飯は何メシなんだ。

しかし、僕は秀才である。前回祖母宅を訪れた際に食らった「わんこそば式無限エビフライ」の教訓を生かし、今日は何も口にしていない。臨戦態勢は整っている。ばっちこい。

「冷やし中華と、からあげね。ご飯もあるんだけど、うなぎのご飯にする?」

警報。早くも暗雲立ち込める。前回の無限エビフライとは異なり、まさかの主食ダブルヘッダー。うなぎは食べられたらにする、と答えた。

そして出てきた冷やし中華。文句なしに美味い。そして、出てくる唐揚げ。うん、これも美味い。そして、出てくる山盛りとはいかないまでも丘盛りくらいはあるほうれん草のおひたし。あ、副菜もあるんだ。美味しい。そして、出てくる丘盛りのきんぴらごぼう。そして、出てくる具沢山のなみなみ味噌汁。食べるや否や追加される唐揚げ。そして、そっと置かれる白米。
「せっかくだからご飯と食べてほしくて」

こうして、日頃小食の僕の胃は過酷な戦いを強いられた。

なんとか全て食べきり(無限唐揚げだけは持ち帰りとさせていただいた、なんせ無限なんで)、重い腹を抱えた僕に祖母が言う。
「うなぎのご飯食べる?」

食べません。

やすやすと白旗を上げ降伏した僕だったが、「せっかくだから」と祖母は構えた銃口(うなぎご飯)を下さない。「後で食べれたら食べるから」と有耶無耶に言ってなんとか逃れた。

その後、昔の話や近況などをゆるりと話した。祖父母、僕が忘れてしまった昔のことをめちゃくちゃ覚えていた。懐かしむ祖父母の前に、若干照れ臭くもあった。
1時間ほど団欒し、一区切りついた瞬間、祖母が腰を上げる。

「うなぎごはん、作っちゃおうか」

人間は、食事の消化に大体2時間を要すると学んだ記憶がある。そして、個人差はあるが空腹を知覚するのにさらにそこから2時間ほどかかる、と。

そんな話はせず、シンプルに「勘弁してください」と言う僕を見て、今まであまり喋らなかった祖父がおもむろに口を開いた。祖父よ、あなたしか祖母の食トレを止められない。頼んます。

「せっかくだ、食べていきいよ」

ブルータス、お前もか。

かくして、僕はほかほかのうなぎご飯と対峙した。うなぎは国産とのこと。そっかぁ。国産かぁ。そいつはいいなぁ。空腹で出会いたかったよ。

えっちらおっちら箸を動かし、脂がノリノリのうなぎを胃に収めるのに、30分はかかった。

しかし、祖母の猛攻は止まらない。

「冷蔵庫にアイスあるよ 好きでしょう、苺のハーゲンダッツ」

確かに、僕は幼い頃から苺のハーゲンダッツを好んでよくねだっていた。今ではさっぱり食べなくなったが、流石祖父母、孫のことはよく覚えててくれるんだなぁ。

いや、そういうことではない。いくら懐かしかろうがその懐古が今の僕の満腹に勝ることはない。丁重に断る僕に祖母が言う。
「じゃあ半分だけでも食べな。あとは食べておくから」

かくして、フタは開いた。

大分甘く見ても1/8には満たない量を食べ(いや、もはや"舐めた"の域やもしれぬ)、祖父母宅を後にすることとした。

お分かりいただけただろうか。このように、祖母は孫という生き物の胃に限界はないと考えているに違いないのだ。なんとも恐ろしい話である。

また、近いうちに訪れよう。今度は、1週間ほどのラマダンを経てにしようか。

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