柔術のすすめ
佐藤金兵衛から柔術を学ぶ方へ
柔術は日本が世界に誇る伝統武術である。柔術と聞いてどんな技を連想するであろうか。素手あるいは短い武器をもって、敵を攻撃し、あるいは防御するのが柔術である。その技法は相手の重心を崩して投げる投げ技。関節の正常な運動範囲を超えて痛める逆捕り、逆にひねって投げる逆投げ。また気道や脈所を圧迫して意識を失わせる首絞めとその活法。漢方医学の経穴を応用した当身などが柔術の技である。
柔術の歴史は古代に遡ることができるが、戦国時代すぎて江戸時代の初期には、それまでその目的と技法の特徴から体術、和、拳法、組打、甲冑柔、小具足取、捕手術、拍打術などといわれていた徒手格闘術を武器法に対して「柔術」あるいは「やわら」と総称するようになった。
明治維新以降、学校教育の中では西洋スポーツが主流となり、古来からの日本武術はスポーツ柔道・剣道などへと変身し、柔術を含む多くの武術はその貴重な技法と心法が失伝し、衰退の一途をたどっていった。
私は戦乱の中国大陸から九死に一生を得て引き上げてきた者であるが、戦後の日本でまず始めたのは世界に冠たる日本の伝統武術の保存と普及であった。何人もの古武道の先生方を尋ね歩き修行した日々が忘れられない。
近年、柔術をやってみたいという人が増えており、私の道場にも問い合わせが多くなったことは喜ばしいことである。このことは最近の不景気で物騒な世の中とは無縁ではないと思っている。柔術へ入門することで、短期間のうちに実用的な技と出会うことができ、技の合理性に気付き、それが護身となり、柔術の技の広がりに心強くなるのである。また道場ではいろいろな世界の人と稽古、交流をすることで学校や職場では得られない友人もできてくる。
世の中がどう変わろうと、尊い自分の生命を守るのは自分しかいないのである。現代社会で柔術を学ぶことの主要な意味は、護身である。武術競技で勝ち負けを競うのは若い一時期であり、護身は一生の大事である。そして、生涯柔術の修行を続けてゆくなかで培われてくる人間性こそわれわれの求めるものである。その意味で私は特に若い人たちが柔術を学んでくれることを願っている。
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