売上ゼロのコロナ禍からネット販売へ。全国にファンができた「昇陽窯」の魅力【手仕事とみらい】
四季を感じる丹波のふるさとから
神戸駅から車を走らせて1時間ほど。緑が広がり、四季の変化を楽しめる景色が広がる兵庫県丹波篠山市には、丹波焼の窯元が並んでいます。 日本六古窯のひとつとして、丹波焼は800年以上も人々の生活を支えてきました。昔ながらの素朴さが残る器はぬくもりを感じさせ、現代でも心がほっとする食卓をつくります。
丹波焼という歴史ある焼き物の産地で、1968年に初代の大上昇さんによって創業した『昇陽窯(しょうようがま)』。
長く受け継がれてきた丹波焼の伝統を守りつつ、変化を続ける人々の生活へ常に新しい提案をする意志は、2代目の裕さん、3代目の大上裕樹さん(オオガミユウキ)さんへと引き継がれています。
2020年のコロナで変わったものづくりの現場
ーーコロナ前とコロナ後でものづくりのスタイルは変わりましたか?
コロナ前までは作家としてのものづくりが7割、昇陽窯としてのものづくりが3割でした。
ーー作家としてのものづくりってどんなものなのでしょうか?
百貨店で展示会を行い酒器・茶器・花器がメインで、食器ってほとんどつくってこなかったんですよ。昇陽窯として量産ものもしていますが、作家は基本1点もの。コンセプトメイクなど使う脳みそも違う感じですね。趣向性が強い壺や茶道具、壁がけの花器・酒器・茶器など、価格も一つひとつ高価なものが多いです。だからこそコロナで軒並み展示会が中止なのは痛手でしたね。
ーー言える範囲でいいのですが、売上ってどのくらい下がりましたか?
2020年の4月は本当にゼロでした。ゴールデンウィークくらいにはコロナも収まるかな? と思ったものの収まらず。どうにかしないと焦って、2020年5月にはBASEを立ち上げて初めてオンライン販売に挑戦しました。まずは100点商品をアップして、展示会などで繋がりのあったお客さん400人にハガキを書いて。
ーー400枚もハガキを!すごい。
みなさんに支えてもらいましたね。器って一つひとつ揺らぎがあるから、ネット販売に対して、顧客対応なども含めて「どうなんだろう?」という思いはあったけれど、ネット販売を初めてBASE内のランキングなども上位に上がっていくのを目にして自信になりました。発送するときに一言コメントを書いたりするのも楽しくて。BASEではお客さんにとって「実店舗で買う体験」を得てもらおうと思ってやっています。
2020年の7月にCRAFT STOREさんが初めて連絡もらった時は、卸ってどうなんだろう? と思ったけれど1点1点作品が売れていく様子を眺めて、完売になったら電話して「完売していますけど、発注しますか?」って。実店舗の取引先が休業になっていたのでオンラインの取引先ができたのは嬉しかったですね。
ーーはじめはオンライン陶器市「CRAFT陶器市-丹波焼編-」への出品だったのですが、あまりの人気っぷりにCRAFT STOREにレギュラー入りを果たし入荷待ちができるほどです!
昇陽窯にはいろいろな作品がある中で「青がいい」って青の器をセレクトしたのが印象的でした。青い器ってやちむんを始め様々ありますが、昇陽窯の青は「碧(みどり)」で、マットな質感。落ち着いたトーンは昇陽窯らしい独自の釉薬です。
CRAFT STORE別注アイテム、できました。
ーー釉薬の流れで、早速出来立てホヤホヤの新作の話をしましょう。CRAFT STOREから「オリジナルのアイテムをつくれませんか?」とお願いしたのも、お客さまから昇陽窯の人気を受けて自然な流れでした。
そば猪口・鉢(大/小)・角皿(大/中/小)の6種類×2色 計12点をお願いしたのは2021年の末。試作を重ね、ようやく2022年春に販売開始予定です!
こだわったポイントなどはありますか?
マットでキラキラひかる碧ですね。とくに碧はマットながらも釉薬がキラッとします。角皿はとくに釉薬が溜まりやすいので、光を当てると結晶のように見えると思います。
また今回の鉢は今までの鉢と異なります。今まではスッと立ち上がったものでしたが、新作は口に向かって内側にカーブを描いているので、掬いやすいし持ちやすい。
ーー小さな鉢はスープ皿としてもいけました!片栗粉でとろみをつけた大根の煮物も掬いやすくて感動しました。
ーーつくるのに苦労した点などはありますか?
青色は釉薬に銅を入れているので窯のメンテナンスが大変。業者の窯やさんに「もうメンテナンスですか!? 」とびっくりされることも(笑)。
ーーカラーも相変わらず最高ですね。「碧(みどり)」も好きですが「栗茶(くりちゃ)」もかなり好きです。今までモーブ寄りのブラウンだったイメージなのですが、今回はかなり黄味寄りのブラウンで個人的に好みです。色の感想は個人的なものです!笑
ーー茶色の食器って和風すぎるのが多いなか、マットだからかすごいモダンなんですよね……!
ーーこなれ感というかしゃれ感というか。控えめながも存在感があります。電子レンジ・食洗機OKなど機能面にもこだわられたのでしょうか?
はい!電子レンジ・食洗機OKですよ。
ーー作家ものの器って食洗機・電子レンジNGなものが多いので、てっきりダメだと思っていたのですが、昇陽窯の本シリーズは「使用OK」とはいいことを教えてもらいました。
ーー鉢を横から見える木星のような線は、なぜできるのでしょうか?
釉薬をかけるとき側面は刷毛で塗るので、刷毛目なんです。
ーーへえ!面白い。ちなみに各皿の裏の賽の目みたいな、高野豆腐みたいな模様はなんでしょうか?
これは布の上に置いて仕上げる工程でつくもので、布の模様なんです。釉薬の掛かっていない茶色が本来の土の色。釉薬の色が綺麗に発色しているのは、白化粧を一度かけてその上から塗っているからで、本来は裏面のような土の色なんですよ。
ーー実際につくっている方からお話を聞けるのは楽しいですね!インスタライブや購入者特典でウェビナーをしても楽しそうです。
ろくろを回しながら話すだけのインスタライブとか一度やったことがあります。恥ずかしいので見る人が少なそうな夜中の3時とかですけど(笑)。限定公開ならやってみたいですね。
ろくろの技術や量産ならではの再現性、器の揺らぎとの戦いは、コロナになってから確実に自分がレベルアップしてきたと思います。コロナ前はメインだった展示会のものづくりとは、違うところが鍛えられています。
作家としてより産地として。未来に残せることは…
ーーコロナ前とコロナになってからで、ものづくりのスタイルだけではなくものづくりに対する意識も変わったと耳にしましたが、変化を象徴するような昇陽窯の新たな挑戦が始まっているんですよね。
そうですね。例えば今までだと作家・大上裕樹としてどこまで行けるか、コンクールで入賞をするかなど作品づくりに意識が向いていましたが、いまはInstagramなどを通して買った人の食卓を見られるわけじゃないですか。
陶芸だけで完結はできなくて。料理を乗せたり、僕らの手を離れてコラボレーションになる存在だなと思うようになったんです。器の物語が始まるんだなと。これほど生活や食卓を豊かに明るくなると思っていなかった。
ーー非常にいい話ですね。昇陽窯のInstagramと大上さんのアカウントと使い分けられていますが、昇陽窯のInstagramは子どもたちの成長を見られるのも密かな楽しみでして。器だったり風景だったり、等身大で親しみがあります。
昇陽窯のInstagramは奥さんにお願いしていて。SNSをやるタイプではなかったのですが、言葉のセンスは信頼していたのでなんとか説得して(笑)。日々の暮らしをブログのように、あったことを素直に書いてもらっています。
コロナになってからは「元気にしてた?」と心配してきてくれるお客さんが多かったので、安心してもらうためにも毎日丹波の風景を届けようと、決まった時間に上げるようになったんです。
自然豊かな土地ですから、何気ない風景でもほっこりとした気持ちになってもらえたらなと。器だけでなく子どもたちや毎日の暮らしをアップして、家族のことを応援してもらえたらという気持ちもあります。
陶器市なども無くなって産地に足を運べなくなったからこそ、元気な様子を伝えて、また自由に行き来ができるようになったら遊びに来てほしいなと思って新店舗も準備しているんです。
ーー拝見しました!工事中の写真も楽しみのひとつです。コロナで新しい挑戦がしにくいなか、すごいなぁと尊敬の眼差しで眺めております。この建物はどういう場所になるのでしょうか?
昇陽窯を使ってほしいというよりは、丹波焼を好きになって満足してもらったら、また違う友達を連れてきて話したくなる場所にしたいと思っています。このお店から工場も見られるし景色も楽しめる。陶芸だけではない新しい体験の場になればと思ってつくり始めました。
ネット販売で非対面の販売やって行って自信ができた。いつか対面の時代になるからその時に路面店をやりたいと思えたんです。
器から始まる物語。人とひととの架け橋に
ーー新たな挑戦といえば2021年に発売された「Little Happiness ギフトセット」も今までと違うな! と感じました。どのような経緯でものづくりがスタートしたのでしょうか?
作家として小瓶づくりは10年前からしていました。花器をつくるも生活様式の変化から、現代の暮らしには大きな壺などは置けないので、だったらと置けない場所はないだろうという小さなサイズを作りました。友人のビジュアルデザイナーと一緒にパッケージから名前も一緒に考えました。幸せを届けたいよね。小瓶だから小さな幸せで「Little Happiness」と名づけました。
ーー直営店も人がひとを呼んでまた来てくれる場所にしたいとおっしゃっていたように、ギフトもまた人とひとを繋ぐ存在ですよね。器から始まる物語がそこにはある気がします。こだわりのポイントなどありますか?
3種類の形を用意しているのですがpencil、bubble、straightという名前はスカートの形なんです。奥さんがファッションデザイナーをしていたバックグラウンドがあるので。そういった面白さも感じてもらえたらと思います。
ーーつくる人にも使う人にもきっとそれぞれの物語がある。大上さん自身が作家としてのキャリアが長いから、昇陽窯としてのものづくりにもいろんなことを想起させるのだと思います。新作の発売も新店舗も楽しみにしいます!
新商品の発売は2022年4月13日予定しております。
▼CRAFT STORE別注アイテムの販売について、販売通知を受け取りたい方はこちらからメールアドレスをご登録ください。
https://www.craft-store.jp/features/shoyougama-newitem
取材・文/木山美波