北上線にのって・続 〜花巻編〜
終点・北上駅で下車した私たちは、次の日の早朝から花巻へと向かった。
今回の旅の目的は帰省。しかし、むしろメインともいうべき裏テーマがあった。
「冬の花巻巡り」である。
宮沢賢治に強い影響を受けた私は、隣県にある花巻には何度も訪れた。電車とバスを駆使し、ほとんどの観光スポットは踏破した。賢治祭にも参加した。
そんな大好きな場所に、いつか子どもと一緒に行きたいなとずっと思っていた。加えて、これまで冬の花巻には行ったことがなかった。
今回せっかく近くまで行くんだしということで、私のわがままに付き合ってもらったのである。
年明け、朝一番の宮沢賢治童話村は、駐車場に車が一台しかなかった。
凛とした空気に銀河ステーションが映える。
ここをくぐるのも10年ぶりだなあ。
銀河ステーションをくぐってすぐに、月夜のでんしんばしらのオブジェがある。好きな童話。
中に入るとやっぱり貸し切り状態で、マイペースに回ることができた。朝イチで来てよかった。
宮沢賢治ビギナーの息子の入りとして童話村はぴったりだった。冬は見れる場所が限られるので、次は雪のない時期にでも。
もちろん記念館にも行きます。何回も行ったけど行きます。
宮沢賢治が実際に使っていたチェロが展示されている。
チェロの孔の奥に、
「K.M.」と青字でサインされているのが見える。
「Kenji.Miyazawa.」である。
改めてこれ見たら、ぐわーっと「本当に賢治が使ってたんだー」という実感が襲ってきた。
なんだかギターを弾く身としてものすごい親近感が湧いた。楽器って楽しいよね、先生も楽しかったんだねえ。
その後イーハトーブ館に寄って、コーヒー飲んでお土産選んで。
山猫軒で昼ご飯。そして
もちろんお墓参りもします。もういつ来れるかわかんないんで。
お線香あげてきました。
そして私が今回の旅で一番行きたかったのがここ!
清水寺。
宮沢賢治が書いた詩『境内にて』が、私本当に好きなんだけれど、その舞台がここと言われているらしい。
観光スポットとして掲載されてなかったから知らなかった!(でも知ってても車じゃないと来れない場所だった)
今回調べた私グッジョブと褒めたい。
『境内にて』では夏だったろうからこの景色とは随分違うだろうけど、ここで起きた出来事だったんだなあ、と感傷に浸った。
夕闇迫る中、雪の山道をひた走り、藤三旅館に到着。
藤三旅館は20歳頃にひとりで泊まったことがあった。
あのときは旅館部に泊まって、その居心地の良さに感動した覚えがある。
もう一回泊まりたいと思ってた。
今回泊まるのは、湯治部。
湯治部というのは基本セルフサービスの施設のこと。もともとは長期滞在する人が利用する部屋で、自炊設備などがついている。
部屋の鍵は南京錠で、息子は驚いてた。
心もとなく感じるかもしれないが、でもそのために部屋に金庫があるのだ。大丈夫だ。
これが湯治部の醍醐味。
もうほとんど湯治部は日本に残っていないらしい。貴重な経験だぞう。
トイレは部屋の外。湯治部は廊下に一歩踏み出すと寒い。
もちろん共同炊事場も寒い。水が超冷たい。
薄い窓ガラスから見える景色。これぞ東北。
うちはこたつをお願いしました。
ガスストーブだけではこらえきれなかったな。
湯治部といえど、食事もお願いできます。
藤三旅館は部屋出し。嬉しい!
健康的な内容で、ひとつひとつこだわって作っているのが感じられた。美味しかった。
温泉も堪能した。脊髄に効くようないい湯だった。
露天からは豊沢川が見下ろせて、夜の黒と雪の白とのコントラストが素晴らしかった。
そういえば、前来たときは部屋から川が見えたんだっけ。
その景色がまた良かったんだよな。
次は川が見える部屋を取ろう。
次の日の朝、朝風呂に行った。
藤三旅館には日本一深い立ち湯がある。それをこどもに経験させたかった。
楽しそうにはしゃいでた。ほんとに深いんだ、大人の女性で肩まで浸かるくらい。
のんびりチェックアウト。いい宿だった。また来よう。
車に乗って、ゆっくりやぶや花巻総本店に向かった。
わんこそばである。
息子はこれを本当に楽しみにしていた。
私は賢治ゆかりの蕎麦屋であるやぶやに入れれば何でもよかった。
やぶやでわんこそばを食べるのは初めてだけど、正月だったからかものすごい人がわんこそばしてた。ほとんどがわんこそば人口だった。
でもたしかに帰省とか旅行とかじゃないとわんこそばにこないよね。みんな私たちと一緒なんだろうね。
子どもはちょっとどきどきしていて開始前は無言だったが、結構頑張った。
小学生平均で10~20杯のところ32杯いった。
10杯で通常のそば1杯ぶんだというので、そう考えるとすごい。
32杯も食べた〜と得意げだった。
こうして北上に戻り、帰路についた。
1月2.3日だったので、賢治関連の施設は営業していないところも多かった。でも巡れるだけ巡れたんじゃないでしょうか。
息子よ付き合ってくれてありがとう。なんでママがずっとテンション高いのかよくわかんなかったかもしれないけど、普通の旅行じゃ経験できないことが経験できたんじゃないかな。