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今どきの大工に必要な”1人工場”政策
メーカーに勤めている人ならわかると思いますが、工場ではありとあらゆる無駄を省いて効率化を図り、製品を作ります。
たぶんそういう感覚を持ってる職人さんて多くないんですが、家づくりだって製品作りです。作品作りにあらず。
ですから効率化できるところは徹底して追求することを、私は「1人工場政策」と呼んでいます。
逆に効率化してはいけないところは制限時間ギリギリまで作り込む、などその時々に応じて仕事に取り組まないと会社から求められている水準と自分が求めている水準を両立させるのは難しいんじゃないかと思います。
少し昔話。
私は会社員の時は営業企画の仕事が長かったし、営業企画の仕事が好きでした。
営業企画という仕事は幅広いのですが、私の場合は成約に至るまでの工程と行動量を確認する仕事でした。
たとえば
・1件の商談を成立させるのに、平均して4件の商談数が必要。
⇒で、現在何件の商談数を確保できているのか
・4件の商談数を確保するのに、平均して1000のアポイント量が必要
⇒で、現在どれくらいのアポイント量を取れているのか
ざっくりと言えば、こんな具合に工程と行動量を把握する仕事です。
この営業企画の経験が大工で活かせているなぁと感じます。
※以下には楽天のリンクが入っている場所があります。工具のイメージ画像を置きたいのですが著作権的な問題があるので代わりにリンクを貼っています。
会社員こそ大工やった方が良いよの事例
例えば、石膏ボードを壁にビスで留める作業があります↓
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現場に届く石膏ボードは幅が3尺=約910㎜あります。
そして壁毎に貼るサイズは違うので、石膏ボードをマルノコという機械で必要サイズにカットします。
↑これがマルノコです。
このカットする工程を細かく見ていくと
①巻き尺で切りたいサイズに鉛筆でマークを付ける
②定規をマルノコに差し込み、鉛筆のマークに合わせる
③定規を固定する
④切る
この4アクションになります。
↑これがマルノコに使う定規です。
これを各壁毎に行います↓
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壁のサイズには
・3尺
・1尺5寸
・2尺8寸2分5厘
・2尺7寸2分5厘
など、色々な種類がありますが、壁一つ一つに対して先ほどの4アクションを取ろうとすると、どうなるのか時間を測って見ました。
①~③までのアクションで約30秒。
④のアクションで約30秒。
合計1分ですね。
で、送られてくる壁は家1棟につき130枚くらいが平均ですから130分。
切る回数はその3倍くらいの390回程度。
1枚のボードを3つに切り分けて貼ることもあるからです。
ということは130×3=390分。6時間30分ですね。
無心でマシーンに
ここで1人工場政策的に考えてみます。
各壁によって貼り付けるボードのサイズは違いますが、使用するサイズは固定されています。
先ほどの3尺とか1尺5寸と言いましたが、だいたい使用するサイズは6種類くらい。
であれば、最初に①~③のアクションを起こして必要なサイズを切る準備をしたら、必要な枚数を計算して④を連続しよう、ということです。
たとえば、予め必要なサイズを枚数分切ってしまえば①~③のアクションをしないで良いことになります。
するとどれくらい効率的にできることになるのか↓
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これはとある3階建ての図面です。
赤いマルと青いマルの壁には同じサイズの壁を貼ります。
赤いマルは9個、青いマルは8個。
①~③にかかる30秒を合計17回節約したということは約8分30秒を節約したことになります。
使うサイズはだいたい6種類と言いましたが、2種類で8分30秒なら、残り4種類で17分。
ということは6種類で約24分、3階建てならこれを3階繰り返すので、72分。数字”だけ”で見ても1時間は効率良く作業ができたことになります。
数字”だけ”としたのは、アクションに拾い切れない時間もあるからです。
たとえば床に置いてあるマルノコを拾う・定規を拾う・定規を拾うために10歩歩く、などです。
このあたりは考慮していないというか考慮できないので、実際はもっと時間の節約はできているでしょう。
というのも、たとえばアクション①「巻き尺で切りたいサイズに鉛筆でマークを付ける」も何度かやっていけば鉛筆の芯が折れて気持ちが切れる・リズムが悪くなるリスクを回避できていることになります。
また、何度もマークをすることで鉛筆の先が丸くなってくる⇒ボードを切る精度が落ちる⇒ボードを作業台に置き、ボードを削る⇒またボードを運ぶ
という、しなくて良い仕事をしないで済むのは進捗の見通しも立てやすくなる=家1棟仕上げる工期の見通しが立ちやすくなることに繋がります。
そうして出来上がったのがこちら↓
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遠目だからというのもありますが、まあ綺麗には貼れてると思います。
ボードを貼る前に下ごしらえを徹底しておき、準備ができたら一気に貼ってしまおう、ということですね。
イメージは伝わったでしょうか?
ところで、先ほどの間取り図をもう一度見てください。
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このフロアでボードを約65枚程度使うのですが、何時間で貼り終わると思いますか?
たまたま一緒になった現場の隣の大工さんは大工歴30年のベテランでしたが、だいたいこの間取りのフロアのボードを貼り終えるのに2.5日かかると仰っていました。
私は大工歴は6年ですが、この間取りだと1.5日はかからないです。隣の大工さんも「え、もう終わったの!?ホントに??」と言って見に来ていたので、それは1人工場政策の効果なのだと考えています。
大工の仕事には壁ボードを貼る以外にも
・天井の下地作り
・床貼り
・窓枠作り
・天井ボード貼り
・階段作り
・巾木打ち
などがありますが、そのすべてに1人工場政策マニュアルがあります。
ちなみにこれが巾木です↓
家の床の上に貼られている縁のようなものがそれです。
大工のクセに効率化なんて考えて仕事するやつが良い家作れる訳ねえだろ
と、私に言ったわけではなく、話の流れでそんな風に口にされた大工さんを知っています。
実際、そう考えてる方はけっこういらっしゃると思います。
けど、大工は作品ではなく製品を作っていますから。作品を作るのであれば制限時間を気にせず納得いくまで何度もやって毎回100点の家を納品していくべきだと思います。
ですが、令和の大工さんがハウスメーカーから求められているのは作品ではなく製品です。一定水準の家を期限内に納品して、と。
「白か黒か」ではなく、そのどちらにも対応できる大工さんは重宝されると思います。
会社員を経験してる人なら、その素地があるはずです。