うるしで繕う生活道具 / 紙もの
「うるしで繕う生活道具」では、生活道具を漆で修理して日常で使い続けられる方法をご紹介しています。割れや傷を修繕する際に素材に合った手法を用い、美しさと耐久性を兼ね備えた道具に仕立て直すあれこれ。
今回は「紙」です。
芯になるもので製品の呼び名が変わる
うるしは液体なので形にするには塗るためのベースが必要です。そして芯になるもので形や名称が変わります。
一番馴染み深いのは挽物、指物、刳物のような木地が芯になる木漆器でしょうか。
言われてみればと思い出す竹などを編み上げて作る編組品に漆塗りをする籃胎(らんたい)、タイやミャンマーなど東南アジア各地で作られている、竹や檜を細く薄く裂いてテープ状にしたものを巻いて形成した捲胎(けんたい)漆器もあります。
塗布したり染み込ませると堅牢になるので、麻布を漆で型に貼り重ねて素地を作る乾漆(かんしつ)は仏像の技法として知られていますし、皮革に塗って型に沿わせた漆皮(しっぴ)と呼ばれる技法もあります。
紙胎という技法は、型に糊漆などを塗った和紙を貼り重ねて型を外すものと、竹の素地に和紙を貼って漆を塗って成形するものがあります。紙縒紐を竹網の要領で編んで漆を塗る紙縒素地もあります。
籠に和紙を貼り重ねて柿渋や漆を塗った一閑張りという技法も紙胎の一種です。
乾燥して強度が脆くなった籠は一閑張で修復してみるのも良いかもしれません。
紙胎に挑戦
①紙箱
修復から少し離れて、何か作ってみるのも楽しいので、少し工程を簡略して身近なものを漆で仕立ててみました。
空き箱に錆漆を重ねて研ぎ、仕上げにくろめた漆を塗れば、なかなかそれらしい漆箱ができます。画像は空き箱に下地を重ねてから漆塗りをしたものです。
本来であれば糊漆や麦漆で紙または麻布を貼って補強しますが、身と蓋に隙間が少なく、厚みが生じて蓋が被せにくくなるので箱の上から直接錆漆を塗り始めました。(貼らずとも、生漆を染み込ませてから作業にあたった方が本当は丈夫)
途中の記録画像がないので、ここからは説明のみになりますが、内外の辺もヘラで出来るだけ薄く平に錆を塗り、硬化してから研ぎを繰り返します。根気がいる作業で、「平らにする」という感覚が少し難しいかもしれませんが、残った錆の使い道としても、何かちょうど良い大きさの箱があれば仕立ててみてはいかがでしょう。
その② 紙コップ
WASARAの製品は、従来の紙容器と撥水加工が異なり、全体に漆を染み込ませることができます。数年前に漆芸家の方が旧Twitterに投稿した、美しく塗りを施したコップに大変感銘を受けて、自分でも拭き漆を試みました。
木製品の拭き漆と同様、生漆を数回染み込ませ、(うるしで繕う生活道具/木製品)、内側のエンボス加工は錆漆を埋めて、銀蒔きをしています。底から立ち上がりの研ぎに手間がかかるので、こちらも作業が長くなるのですが、仕上がりの感激はひとしおですから、機会あれば試してはいかがでしょう。
その③ 紙縒風
紙縒細工は江戸時代に発達した工芸で、元は書き損じのリサイクルでもあり、軽さや水に強い特性を生かした製品が作られ、韓国でも紙縒の李朝工芸として有名です。前2つと違い、元になるものはありませんが、使っていなかった井草の籠を生まれ変わらせるべく、現在進行形で漆を塗っています。
まとめ
いずれもたくさん生漆を使いますので、漆の酵素が活発に働く梅雨時期や、肌露出が多い夏場を避け、かぶれ対策は十分に行なってください。
その点を気をつけて進めて頂けたら、何か作ってみるのも楽しいものです。
一から始めなくても、身近なものに少し手を加えることで、気軽に漆を感じられるかと思います。
いずれも詳しくは自宅教室で実物を手に取ってみてください。またご興味ありましたら講座にてお声掛けくださいね。
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