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痕という毒

フィクション、ポエム

相手に少しでも自分の痕跡を残したいと思うのはそれほど不思議なことだろうか。匂い、キスマーク、それは相手が自分のものであるマーキング。秘すべき関係で、痕跡を残すべきでないのは当然だ。明るみになれば終わってしまう。それでも残してしまうのは、相手への気持ちが強すぎるのか、自分の濁った独占欲か。業は深い。

セックスは楽しい。相手を強く感じるこれ以上の行為を知らない。体を重ね、欲望を吐き出し、自分を曝け出す。それを受け止めてくれる相手を愛おしく思うし、相手に自分を残したい気持ちが溢れる。そんな感情が高ぶった時、残すべきでないという常識を失し、相手の肌に吸い付き、時には歯を立てる。それははじめは紅潮したかのように赤く、少しの時間をおいてその感情にも似た暗い色に変わっていく。別にそれは胸元でなくてもいい。腕でも足でも耳でも、あるいはその全てでもいい。それは隠しようのない不義理の証で、そこに残る痛みは体を重ねて求めあった証だった。

流石に、浮かれた高校生ではない。首筋のように見えるところにはつけない。普段は見えない服の下。それでもこの痕はふとした瞬間に意識してしまう。着替えで服を脱いだ鏡の前、触れて痛みを感じた時、髪をかきあげた時、会っていない間も相手を思い出して続けてしまう。これはまるで毒のようなものだ。この毒はその痕が消えるまで続き、そして消える頃にはその毒が恋しくなる中毒性がある。

一度はまった毒が抜けることはなく、痕という毒が抜けることが怖くなり、毒がなくなる前に相手が欲しくなる。そうして毒の上書きを求める。この毒は耐性ができる。前と同じ痕では消えるのが怖くなり、もっと強い痕を欲し、それをつける。そして、好きという毒はやがて全身を犯す。

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