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最初の社内恋愛

フィクション

社会人になると気がつく。もう出会いに溢れた環境ではないのだと。学生の頃のように新しい知り合いがどんどん広がるようなことはないのだと、働き始めて2年目には気がついた。結局の所、一日の大半を会社で過ごすのだから会社で関わる人間しか知り合いは増えない。特に拘束時間の長い会社だったから、社内恋愛が多かったのもそういう理由なのだろう。だが、社内恋愛をしたいかと聞かれれば、仮に今がフリーだったとしてもNOというだろう。

まだ2年目か3年目だった頃だろうか。学生から付き合っていた彼女とも別れ持て余す時間を仕事と勉強に費やす日々だった。会社としては大きくはないが、毎年新卒はある程度入ってくるような会社だった。今年も、同じチームに少し歳下の後輩が何人か出来た。忙しかった自分は数回の講師をした程度であまり新人研修には関わっていなかったが、さすがに同じチームなのだから話す機会も相談に乗る機会もそれなりにあった。

部門での研修も終わり、いよいよ通常業務に新人達も参加し始める頃、新人の1人から社内チャットで連絡をもらった。「相談とかがあるので、休みに飲みに行きませんか」恋愛経験の少なかった自分は言葉通りに、仕事の相談だと思ってOKと返した。その新人の指導担当は仲のいい先輩だったが癖も強かったのでそういったところの相談でもあるのかなと考えていた。

当時、自分は会社の徒歩圏内に住んでいた。その新人は借り上げ社宅がある学生街の駅に住んでいることを知っていたので、どこで飲もうかと場所のすり合わせをすると会社のそばでいいと言われた。少し不思議に思ったが、遠慮しているとかではないと言われたので、言葉に甘えて会社からほど近い居酒屋で会うことにした。飲みながらの会話は想定したものであった。仕事の話、新人研修が大変だった話、そこにまだ大した経験があるわけでもない自分が偉そうな上からの話をしたりと、そんなもんだったと思う。それなりに飲んでそろそろ店を出るかという時に、彼女が自分の家を覗いてみたいと言い出した。流石に少し違和感があったが、少しだけというので了承し5分ほど歩いて部屋に招いた。

男の一人暮らし、そしてあまりこだわりのない人間の部屋だ。実利優先でベッドとデスク、食事用のこたつ机くらいしかない部屋に彼女を通した後の流れはあまり覚えていないが、気がついたらベッドの上に座って向き合っていたのは覚えている。自分が壁を背にし、彼女がそれに向き合っていた。当時の自分の倫理観にワンナイトはなかったし、会って即日そういう関係になるという選択肢もなかった。そして彼女の倫理観は違っていた。流石に、いきなりはと躊躇する自分に「いいじゃないですか」と迫る彼女。最後は経験がないのかと煽られ、流石にちょっとした怒りとともに理性を投げ捨て押し倒した。少し小柄な彼女は始まるとおとなしく、それでいて積極的だった。久しぶりにするセックスは楽しいものであったのも事実だった。

この日から一応の交際関係になった。少なくとも好意は抱かれているのはわかったし、好意を抱いているのも事実だった。社内では、彼女が帰る前に給湯室でコップを洗っている時にキスをすることもあったし、人が少ないフロアでキスをしたりと隙きあらばそういうことをしていたと思う。昼休憩も、自分は家が近いので帰って食べることが多かったから、時間をずらして彼女も部屋に来て、セックスをして仕事に戻るなんて日もあった。10分前までセックスをしていたのにお互いに仕事をするというシチュエーションはそれなりに燃えた。彼女は性欲が強いタイプだったし、自分も性欲が強い年頃だったからのめり込んでいた。

しかし、彼女は年末には地方への配属が決まっていた。爛れた交際も半年ほどの制限付きであった。彼女が東京を離れる日、空港に併設されたホテルを予約し二人で泊まった。部屋に入るなりセックスをし、少し休んで空港を歩く。少し人がまばらな中、少し割高な夕飯をとり、お酒を買い部屋に戻り、2回目を楽しむ。疲れて寝てしまうもどちらかが目が覚めては相手を求め何度も身体を重ねて迎えた朝は気持ちも身体も少し気だるくなっていた。

ゲートをくぐる彼女を見送り、半年間の社内恋愛は終わりを告げた。

その後はまぁ、不安定になった彼女が仕事に支障をきたす程度にチャットが荒れたり連絡が揉めたりとあまりいい終わり方ではなかった。だから社内恋愛はきっともうしない。




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