50歳のノート「職人魂のぶつかり合いに燃える 「白と黒のスプーン ~料理階級戦争~」」
Netflix「白と黒のスプーン ~料理階級戦争~」にハマった。見始めたら止まらなくなり、公開が待ち遠しかった。
韓国お手のもののサバイバル番組で、80人のシェフが料理対決する。
面白いのはまずその構造だ。
白のスプーンチームと黒のスプーンチームに分かれている。白はトップシェフたち40人でしめられる。高級ファインダイニングの有名シェフでテレビでお馴染みの人もいれば中華料理の大御所もいる。
白のコック服を着た彼らの立ち姿は風格がある。
黒は街の人気料理人が40人、顔を連ねる。巷で人気のお店の料理人たちだ。高級なファインダイニングのシェフもいれば市場にある大衆食堂のおかみさん、料理YouTuberもいる。
黒のコック服がちょっと馴染まない感じがリアルで良い。シェフというより料理人といった方がしっくりくる。
対決のテーマが趣向を凝らしていて毎回飽きさせない。
面白かったのは白と黒のチーム対決である。
白はベテランかつ有名シェフたち。いわばアベンジャーズである。
一方、黒は街の料理人。自分1人で店をやっているので他の人と働いたことがない、と不安そうである。
当然白が優位に見えた。
けれど、いざ勝負が始まると、まあ白がまとまらない。料理のテーマ、調理法が途中でどんどんブレていく。みなさん普段は自分が長なので指示を出す方である。「こうした方がいいと思う」と誰かが強く言い出し、途中で変更になる。方針が決まらないのだ。
時間制限を気にして妥協して進めるが、また誰かが意見を持ち出し…。
肝心の料理は茹でたり揚げたりと調理法がくるくる途中変更になっている。いったい味がどうなってしまったやら、ハラハラする。強者ぞろいのはずなのにてんやわんやだ。
一方、黒は自分に自信がない分、相手をリスペクトしてきっちりまとまって動いていた。
結果、白が負けた。
アベンジャーズだけで作ったチームだったが完成度で負けた。
この勝負、実は二段構えだった。
白黒対決はパート1 とパート2 に分かれている。白のパート1対決の破綻ぶりをながめていた白のパート2 チームは「自分たちはリーダーに従おう」と決意した。
白のリーダーは韓国バラエティでおなじみのシェフ、チェ・ヒョンソク。彼のもと、白チームはガラッと変えた動きを見せる。
メニューを決め、食材を確保し…という通常の段取りを無視し、まずはヒョンソクシェフは絶対量の少ない食材の確保を指示する。
有名シェフたちが開始と同時に食材めがけてダッシュし、ホタテをかごに全量入れてしまう。それを横目で見た黒チームが浮き足立つ。「えっ独り占め…?」。
黒チームはメニューが決まってないのに白につられて食材確保に動き出してしまい、時間を無為にする。
白は軍隊が如くヒョンソクシェフの指示のもと着々と仕上げる。
パート1の白チームのように意見百出で方針がコロコロ変わったりしない。
ヒョンソクの白チームは彼の方針のもとに白メンバーが各自かき回すことなく職人に徹した。
ずっと白黒対決の構造が続くかと思いきや、白黒混合のチーム戦まで用意されている。
それぞれの考え方、意地、職人魂が垣間見えて飽きさせない。
もう一つの見どころは審査員である。
2人いて、1人は韓国トップシェフで外食チェーン王のペク・ジョンウォン。もう1人は韓国でただ1人のミシュラン三つ星シェフ、アンソンジェだ。
2人の審査基準がかなり異なっていて判定が割れる。ふたりの判定バトルも面白い。
ペク・ジョンウォンはチャレンジと味の分かりやすさを高評価する。アン・ソンジェは料理の完成度と作り手の意図が料理にきっちり反映されているかを重視する。
判定が分かれて議論するうち、ふたりは「今回の審査基準を揃えておこう」と事前に準備を始めた。(聡明な方々ならでは)。それでも揉める揉める。料理人たちに聞こえないように小声のはずがボルテージがあがる。
審査員たちすらも白黒の白熱対決だ。
個人的にはペク・ジョンウォンの観点の方が本質的では?と感じる。
自分が人間味あふれる彼のファンになっているからかもしれない。
この審査員対決が韓国でうけたのか、TikTokで韓国のお笑い芸人がこの番組の審査をパロディしている動画が流れてきたほど。それほど審査が面白かった。
このコンテンツ、毎回手を変え品を変えのダイナミックな勝負で、あっという間に見終わってしまった。
後半はもはや誰が優勝してもよいのではというくらいのぶつかり合いだった。
あらためて何に夢中になったのか考えてみると、チームのあり方がリアルだった。
個人として優秀でもチームとなると急にパフォーマンスがおかしくなるのは会社でもあるあるの光景だ。
声の大きい人に振り回されるところも…。
個人戦になるとシェフの思いをこめて「自分が作りたいものを作る」という職人魂が光った。
「なぜその料理にしたか」という思いをきくとそのストーリーに涙したときも。
何より魅力的なのはシェフたちがうつむいて真摯に料理するさまだ。
真摯で繊細な手つきから芸術品のような一皿が作られる。
純粋さ、真摯さを自分が大切にしているのでよりブッ刺さったのだろう。
職人魂のぶつかり合いを見せてくれた 「白と黒のスプーン ~料理階級戦争~」に拍手を送りたい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?