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50歳のノート「ロシア文学風の重厚さに酔う「悪女は2度生きる」」


ピッコマ「悪女は2度生きる」、もう長く読んでいる気がする。
長い長い物語だ。途中で挫折し、気づくとまた読み始めている。
架空の王国を舞台に時間巻き戻し系ファンタジーだ。

冒頭は女主人公ティアの壮絶な処罰シーンで始まる。
皇帝の愛人になった母から兄ローレンスとティアが生まれる。ローレンスを次の皇帝にしたい母から「兄の役に立て」と常に道具扱いされるティア。謀略の才能を持ち合わせていたティアは遺憾無く「裏仕事」に手を染めローレンスを皇帝に押し上げる。
もはや用済みとなった妹を口封じするため兄の命令により罪をなすりつけ両手と舌を切り落とされる。
両手と声を失って牢につながれるティアのもとに北の地の領主セドリックが訪れる。
皇帝の暴政を食い止めるためにティアの策略の力を貸して欲しいと跪く。

今の状況に何もできないけれども方法はある、とティアは己の血で魔法陣を描き時間を巻き戻す。

すると、まだ兄が皇帝になる前、ティアが18歳の日に戻っていた。
両腕も声もある、巻き戻す前の記憶もある。
もとの策略のセンスと経験値もある。

無双し出すかと思いきや、ティアはひっそりと影のように自分を位置付けている。

自分を頼ってくれたセドリックや、かつて犠牲を強いた聖女リシアに陰ながら手を差し伸べていく。
ただし、そこは王朝ものの本領発揮。
皇帝の疑心に触れたが最後、その人物はジ・エンドになる。

皇帝と有力者の思惑を巧みに操りながら疑心を植え付け敵を排除していく。
すべてはセドリックとリシアのためである。
薄氷を踏むような緊迫感が続く。
やがてセドリックがティアに心を向け始める。
彼を受け入れて幸せになって良いのにティアはあくまで「責任」の域を出ようとしない。
セドリックには自分と関わりなく幸せになって欲しいと願っている。あくまで影の存在でいようとするのだ。

自分がこの世界にいたら秒で死ぬだろうと思う。
ティアのように相手の思惑を読んで状況をコントロールすることなんてできない。
ただぐるぐるパンチで突っ込んでいって爆散するだけである。

できもしないことに憧れるのは何故だろう。
そう考えると、自分が状況をコントロールして安心安全を作り出したいという根深い欲求があることに気づく。
世界は理不尽で怖いもので満ちている。そこにどれだけあらがうことができたか、それが自分の価値だと思っていた。 
ぐるぐるパンチより、策略を使える方が怖さをひっくり返す面積が多い。
世界が怖い分、ぐるぐるパンチの自分をより無力に感じる。

無力さを噛み締めたまま、いつか無力に慣れて生を終えるのかな、と思う。
ティアのように時間を巻き戻したとしても自分にやれることは少ない。
せいぜい大きく分岐を間違えたところであらがってみる程度だろうか。
大学時代に自分の資質を掘り下げて言葉の世界を仕事にするとか、結婚を回避する、とか。
逃げてしまったもの、深く考えず後で大きな損失になったもの。その手当てをしていれば違う未来になったかもしれない。

かつてと異なる未来を求めてひっそりと戦うティアと気持ちが少し重なる。

人物が大勢でてきて複雑に絡み合う重厚なストーリーといえばロシア文学だろう。
(もはや内容が記憶から失われているがうっすらそんなイメージが残っている)。
「悪女は2度生きる」は寒い北の大地がメインになるせいか、特にロシアをイメージさせる。
登場人物も多く、暗く深い物語だ。 
読む人を選ぶだろうけど、チャカチャカした作品を読み飽きた人はハマるかもしれない。
冬の寒い時期にじっくり読むたいときにおすすめの作品。

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