【試し読み】Pythonで高精度GPSを使いこなす【Interface22年3月号 1/25発売】
Interface 2022年3月号の特集「Pythonで地図・地形,高精度GPS」
この特集ではPythonを通して測位のしくみや高精度GPSのしくみを解説していきます.
第1章「高精度測位と地図で広がる世界」を試し読み!
まずは今「GPS」がどのようなことに活用されているのかおさらいしましょう!🔍
高精度測位と地図で広がる世界
皆さんは,現在地や目的地までの行き方を知るために,スマートフォンやカーナビなどで地図上に現在位置や経路が表示されるナビゲーション機能を使っていると思います.こうしたナビゲーション機能はロボットの制御などでも利用されており,自分の位置を知る「測位」機能と周辺の地物との関係を知る「地図」機能から構成されています.これから,このナビゲーション機能は社会のさまざまな場面で利用され,ますます便利になっていくと思われます.ここでは,高精度測位と地図で広がる世界の今とこれからについて紹介します.
● 高精度測位と地図の今
GPSに代表される衛星測位(GNSS)注の精度は従来3 ~ 10m程度でした.日本版GPSである準天頂衛星システム(みちびき)などでは衛星測位の誤差をリアルタイムに補正する仕組みが用意されており,センチメートル級精度の測位が可能となっています.どのような応用が期待されているか見てみましょう.
自動運転や運転支援システム
● 自動運転ではセンチメートル級の測位が必要
自動車の自動運転を実現するためには,車線の幅の中に車体を制御することが求められます.このために20cm 程度の精度で位置を把握する必要があります.現在,市販車で実現されている自動運転(または運転支援機能)は,レーダやカメラといった車載センサによって実現されています.2022年初めに発売開始を予定している電気自動車アリア(日産自動車)では上記のセンサに加え,みちびきのセンチメートル級測位補強サービス(CLAS)と高精度3次元地図(HDマップ)を組み合わせることで,道路形状や自車の位置を正確に把握し,状況に応じて同一車線内でのハンズオフ走行を実現しています(1).
● 高精度地図を作るには高精度な測位が必要
高精度測位による自動車の自動運転を実現するためには,高精度な地図も必要になります.従来の地図の精度は約10mと言われており,こうした用途に使うことはできません.
高精度な道路地図を作るために高精度測位を行う高性能GNSS受信機器とレーザ測距機器,高精細カメラを搭載したモービル・マッピング・システムが運用され,日本全国の道路の高精度3次元データ(HDマップ)を取得することが可能になります(2).
このシステムでは,道路上の白線やガードレールといった地物の3次元位置データをセンチメートル級の精度で取得しています.これをデータベース化して,自動運転などを行う際の基準データとしているのです。
● 国土のマスタ地図を更新するシステムにも
国土地理院が整備・更新する「電子国土基本図」は,日本国内の地図のマスタとして利用されています.道路の整備などによって地図が変化する状況の中,地図データを最新の状態に維持するために多大な労力を要しています.
最新の測位衛星システムみちびきの持つ機能CLASを利用した移動測量車により,こうした作業を効率化する実証実験が行われています(3).
● カメラが苦手な降雪時などの運転支援
車線逸脱回避を目的とした運転支援システムでは,一般的に車載カメラによって道路脇の白線を検知することで,車線を認識しています.しかし,このような仕組みは例えば雪が積もって路面が見えない環境では使えません.雪が積もった路面を走行する除雪車などの車両では,別の方法で自分の走行位置を検出する必要があります.みちびきのCLASを利用すればセンチメートル級の測位精度で自車の位置を知ることができるため,除雪車の運転支援を行う実証実験が行われています(4).高精度測位と地図を用いることで,凍結防止剤を散布する場所を必要な範囲だけに限定してコストを下げたり,道路の損傷を避けたりすることも可能になります.
農作業の自動化や精密農業
● 土壌地図などを使った精密農業による効率化
農業従事者の高齢化が進んでおり,平均年齢は既に67歳を超えています.国内の食料生産を維持するためには,農業の効率化,省力化が欠かせません.
農作物の生育状況や土壌の状況を作物1本単位で把握する精密農業のために高精度測位を利用できます.ほ場の土壌地図を作った上で,肥料の量や種類などを最適化することで,単位面積当たりの収穫量や品質を高めることができます.将来的には,りんご1個といった単位で作物の生育管理や収穫時期を自動的に判断できる時代になるかもしれません(図2).
● ロボットによる農薬散布や収穫の自動化
農場の地図はロボットの走行にも利用できます.2018年に放送されたテレビ・ドラマ「下町ロケット ヤタガラス編」では,高精度測位によって農機を自動運転させるスマート農業がテーマになっていました.
農機の位置を数センチメートル単位で精確に把握できると,高精度な地図と合わせることで自動運転が可能になります(5)(図3).
農業向けでは農薬散布や作物の生育状況の監視にドローンが使われるようになっています.ほ場の地図を使って,域外への経路逸脱を防止したり,周辺の樹木などへの衝突を回避したりする仕組みも導入されています.
ドローンの飛行経路管理
● 人や物の輸送
ドローンによる配送の実証実験が多く行われています.ドローンを目的の場所にピンポイントで離着陸させるためには,高精度測位と地図が必要になります(図4).室内向けドローンを除くほとんど全てのドローンがGPS を利用しています.
人を乗せる空飛ぶタクシーもいずれ実現されるでしょう.この場合,地上だけではなく,空路を識別/管制するための空の地図も必要になるでしょう.
● オリンピックの開会式でも使われていた
2021年7月に行われた東京オリンピック開会式では,インテル社の1824機のドローン編隊がショーを行いました.このドローンは,位置の把握を高精度測位で行い,あらかじめ決められたルートに沿って飛ぶようにプログラムされています.
将来的には,ドローン編隊が相互に周囲の状態を監視して,故障の際など,必要に応じて役割を入れ替えるといったインテリジェント化が進むでしょう.
● 空からの測量
ドローンにLiDARやカメラのようなセンサを搭載し,高精度測位によって自己位置を求めることで,空から高精度の測量を行うシステムが実用化されています.
災害の後,道路などの復旧のために被害状況を把握する際にも空からの測量と調査は有効です.
土木や交通インフラ
● 高精度測位によるIT 施工を実現
建設や土木工事においては,図面指示に基づいて自動的に施工するなど,高精度測位を活用したIT施工が実用化されつつあります(図5).造成工事において高精度測位を活用することで,複合現実(MR)を活用して簡単に施工状態を確認できるシステムの実証実験が行われています(6).
● 船舶の自動接岸や海洋土木工事
船舶の運航を自動で行うシステムは実用化されていますが,高度な技術を要する船舶の接岸作業についても,高精度測位を応用することで実現されつつあります(7).
船体の向く方位を正確に求めるために,複数のGNSSアンテナ間の精密相対測位から姿勢を求めるGNSSコンパスも用いられます.また,海洋土木工事のように,高い精度で船舶の位置を制御する必要がある場合にも有用です.
● 港でのコンテナ物流作業の自動化
コンテナ船からコンテナを下ろしてトラックに積載するためのクレーン操作などは,現在のところ人手に頼っています.高精度測位と画像認識,機械学習などを組み合わせることで,自動化が進むと期待されます(図6).
● 道路上の落下物や設備点検での位置把握
高精度測位と地図を応用することで,高速道路上の落下物などの位置を正確に知らせることができるようになるかもしれません.
多くの乗用車にドライブ・レコーダが搭載されるようになっていますが,落下物を発見した際に,その正確な位置を高精度測位によって把握し,自動的に通報するようなことができるようになるかもしれません.
空港の滑走路に設置されている誘導ランプの点検や,鉄道の線路の点検などにおいても,高精度測位と地図を組み合わせることで,自動化や省力化が可能になると期待されます.
災害対策
● 津波の早期警報
海上に浮かべたブイの高さを高精度測位により正確に測定することで,津波を早期に検知するGNSSブイの研究が行われています(8)(図7).日本の周辺海域に係留されたブイからの観測データは衛星回線によって伝送されます.これによって津波の発生と,その規模を瞬時に知ることができます.
● 地すべり監視
集中豪雨の際などに山の斜面が崩落する災害が各地で発生しています.定常的に位置を正確に把握することで,地すべりを早期検知できます.高精度測位は,このようなセンサへの応用も期待されています.
日常生活
● パーソナル・モビリティ
これまで主流だった自動車やバスなどの移動手段の代替として,郊外での買い物などに使える1人乗りのパーソナル・モビリティが実現されつつあります(9).
高精度測位と地図を適用することで,ショッピング・モール内のような場所での簡便な移動手段となるモビリティや移動式のゴミ箱などの実証実験が行われています.
● スポーツ観戦がもっと面白くなるかも
高精度測位を利用するとF1レースやヨット,マラソンのようなスポーツで,競技者の正確な位置をリアルタイムに把握できます.
こうした情報を視聴者にリアルタイム中継することで,今までとは違った視点の楽しみ方が生まれると期待されます.
サッカーやフットボールなどのスポーツ選手が衛星測位に対応するセンサを装着することで,試合中の活動量をもとにした作戦立案(交代時期など)に役立てるシステムが実用化されています(図8).
● トレーニングや健康のモニタリング
将来的には,高齢者などが散歩中に高精度測位対応の機器を携帯することで,歩き方などの状態から健康状態の把握に役立てることができるようになるかもしれません.
ひろかわ・るい
第1部 Pythonで高精度測位 へ続く…
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