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投資は「お金を増やすため」だけじゃない。社会起業家を増やすUNERI代表に聞く、個人ができる“インパクト投資”のススメ

最近、幅広い世代で関心が高まっている「投資」。若者のあいだでも、毎月の収入から少しずつ株を買ったり、積み立て投資をしている方も増えています。

投資といえば「お金を増やす」イメージがありますが、ただお金が返ってくるだけでなく、社会をより良くするきっかけとなるような投資の方法があるのだそう。

そこで今回は、社会起業家の発掘や育成、行政との共創事業などを行う株式会社UNERI代表の河合将樹さんに、未来に繋がる投資についてお話を聞いてみました。

河合 将樹(かわい・まさき)
1995年愛知県生まれ。イギリス留学、NPO法人ETIC.で学生起業家向けプログラムの運営を経て、2020年に株式会社UNERIを創業。社会起業家育成や約460件の共創事例、約4億円の資金調達支援などを通して、東海地域スタートアップエコシステムの基盤をつくる。2022年にSIIFのインパクト投資ファンドで投資業務に従事。2024年には業界最大規模イベント「IMPACT SHIFT」を開催した後、一般社団法人IMPACT SHIFTの代表理事に就任。金融庁主催「インパクトコンソーシアム」の地域・実践分科会ディスカッションメンバー。Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2024選出。

財務的なリターンを生みながら、社会課題を解決する「インパクト投資」

ーー投資といえば、「お金を増やすためのもの」というイメージがありますが、社会をより良くするための投資方法もあると聞きました。ぜひ教えてください!

河合さん:
そうなんです! 最近では投資家のなかでも、社会を変える投資のあり方である「インパクト投資」が広まりつつあります。

ーー「インパクト投資」?

河合さん:
インパクト投資とは、お金が返ってくる「財務的リターン」にプラスして、社会を良くする社会的インパクトも追求する投資のこと。

「インパクト」という言葉には聞き慣れない方が多いかもしれませんが、「社会的・環境的な変化や効果」という意味です。

簡単にいうと、インパクト投資は「お金も返ってきて、社会もよくできる投資」ということですね。

ーーそんな投資があったんですか…!

河合さん:
以前は、環境や社会に配慮した事業を行っている会社に投資しようという考え方の「ESG投資」と呼ばれる投資が注目を集めていました。

しかし、ESG投資はネガティブスクリーニング※の意味が強く、ポジティブに社会的・環境的な課題解決を目指すところに投資を行うのが、インパクト投資と解釈してもらえるとわかりやすいかもしれません。

もちろん、インパクト投資を適切な形で実現するのは、投資家にとっても、事業を生み出す起業家にとっても簡単なことではありません。

しかし、今は全世界的に環境的・社会的課題の解決を促す流れが生まれているため、今後さらに重要となってくる投資行動と考えていますね。

※ネガティブスクリーニングとは?
投資先を決めるとき、あらかじめ決められた特定の社会的または環境に対する基準を満たさない企業を排除すること

個人が投資で社会を変える方法とは?

ーーちなみに、インパクト投資は個人単位でもできるものなんですか?

河合さん:
インパクト投資自体はいち消費者には難しいかもしれませんが、「インパクト志向(環境・社会課題を解決するという姿勢)」を持って投資をすることは、個人でもできますよ!

方法は大きく分けて、「間接的な投資」と「商品の購入」の2つがあると思います。まず、「間接的な投資」は、社会や環境に配慮している企業に投資すること。

一般的な消費者が投資で接することができるのは上場企業になるので、投資できる対象は限られます。それでも、国内には約4500社の上場企業があるので、インパクト志向な企業に個人で株を購入してみる、投資信託を経由して運用して頂くというのは1つの方法になると思います。

さらに、近年では個人が未上場のスタートアップに投資できるサービスも増えているので、そういったサービスを通じて、投資を始めてみるのもいいかもしれません。

ーーなるほど!個人でもインパクト志向で投資をすることができるんですね。

河合さん:
また、応援したい企業の商品を購入することも、個人ができる投資の1つです。僕は、「消費は投票」だと考えていて。

企業はお客さんからお金を払ってもらうことで成り立っているので、自分が応援したい企業にお金を払うことはとても重要です。

未来へ投資することを意識して、ソーシャルグッドな商品を買ったり、社会課題の解決に取り組んでいる企業の商品を選んだりしてみてほしいですね。

さらにプラスしてほしいのは、そんな消費行動をするときは、「良いこと」と「良いもの」は違うことを意識することです。

ーーどういうことですか?

河合さん:
たとえば、社会課題の解決を意識して、ソーシャルグッドなお菓子を購入したとします。でも、食べてみたら「味は悪くはないけど、もう少し改善できる点があるな...」と感じることもありますよね。

ーー身に覚えがあります…!

河合さん:
そういうとき、「社会に良いから買おう!」は大前提大事なんですが、合わせて、企業に対して適切なフィードバックを届けてほしいんです。

どんなに社会にとって良いことをしていても、商品自体が良いもの(例:おいしい、コスパがいい)でなければ、一般的にはその商品が残りつづけることは難しいです。

しかし企業目線では、社会に「良いこと」で売れたという成功体験が残るんです。

これでは、最初は応援購入をしてもらえたとしても、継続的な購入に繋がらない連鎖に入り、双方にとってもサステナブルじゃないんですよ。実際、自分の周りの起業家はこのジレンマに悩んでいました。

ーー「良いことなのか」と「良いものなのか」は、切り分けて考える必要があるんですね。

河合さん:
良い商品で、さらに社会にとっても良いことをしているというのが理想だと思います。ただ、最初から「良いこと」も「良いもの」の2つを高水準でつくるのは一筋縄ではいかないです。

だからこそ、消費者側も声を届けることで一緒に「良いもの」をつくるのはどうでしょうか。実際、多くの起業家はユーザーの声を量的・質的にも求めていますし、消費者の素直な声を歓迎すると思います。

自分もよくするのですが、「この商品を大切な人にプレゼントしたいか?」とイメージしてみるといいかもしれません。贈り物という観点から考えると、商品の価値を客観的に評価できると思います。

「寄付」をきっかけに、目指したい未来を思い描いてみよう

ーー投資をするためには、応援したい企業を見つける必要がありますよね。どんな企業を応援するべきか判断するコツはありますか?

河合さん:
どんな未来を描いているかは人それぞれなので、明確な基準を作ることは難しいです。でも、投資をするうえで「目利き」をする技術はとても重要。

目利きとは、今は見えない未来の価値が見える「レンズ」のことです。その企業は本当に信頼できるのか、成長するのか、投資することで社会にどんなインパクトを残せるのかを判断する力のことですね。

ーーどうすれば、「目利き」の技術を身につけられますか?

河合さん:
まずは「寄付」から始めてみるのもいいかもしれません。

国内には寄付を受け付けているNPO法人などの非営利組織や団体が約5万社あります。寄付をしようと思うと、寄付先がどんな活動をしていて、寄付したお金がどのように使われているのかをよく調べるようになると思うんです。

ーーたしかに…!

僕自身、毎月数千円を7〜8つの団体に寄付していますが、寄付先を固定するのではなく、そのときどきの自分が目指したい未来のあり方や支援したい領域に併せて、少しずつ変えています。

その時も、「寄付先」という観点で事業活動をみてみたり、比較検討をしてみたりすると以前とは違った景色が見えるようになるはずです。

寄付を通じて、理想的な未来を考えてみることが大切なのではないでしょうか。

社会課題に本気で取り組む“イノベーター”を増やしたい

ーー社会起業家を増やすための仕組み作りをしている河合さんですが、河合さん自身はどんな未来を描いて、会社を経営しているんですか?

河合さん:
僕が目指しているのは、社会課題を解決できる可能性を持ったイノベーターが自分の道を歩める社会を作ることです。

実際に1から事業を立ち上げる起業家たちが、それぞれの価値観とスピードで事業を進めていくためには、自分に合ったファイナンス(資金調達や調達した資金の使い方)を選べる社会にしていく必要があります。

ーーなるほど。河合さんは、イノベーターがそれぞれのあり方で事業を成功させるために必要なお金の流れを整えようとしているんですね。

河合さん:
そうですね。僕は学生時代にイノベーターを育成するプログラムの運営側でたくさんの学びを得たことで、現在の自分を作ってもらえたと感じています。

具体的には「全ての起業家が10年でIPOを目指すべきなのか?」というと、そうではないとピュアに思いました。

つまり、”深い社会課題”に取り組んでいる起業家(=社会起業家)は特にお金が回っていない構造的な特徴に気が付きました。だからこそ、既存の常識からはこぼれ落ちるイノベーターも包括したエコシステムを作りたいと考えました。

社会起業家にお金を巡らせていくには、現在の資本主義のような短期的な利益を生む考え方だけでなく、これまで軽視されていた非財務面を考慮したり、時間軸の長い投資ファンドを増やしたりすることで、「インパクトファーストな企業」を適切に評価する仕組みが必要なんです。

ーーそれが、河合さんの行っている「社会起業家を増やすための仕組み作り」なんですね。

河合さん:
まさにです。その一環で、2024年8月には「インパクトオフィサーの学校」という個人・法人向けの人材育成プログラムを開始しました。

インパクトオフィサーとは、欧州で普及している「非財務の可視化・測定」と、それを通じて「企業成長」を推進する専門家のことです

さらに、8月には「一般社団法人インパクトシフト」を立ち上げました。これは、「インパクトの世界に入口をつくる」ことを掲げている、業界最大規模のカンファレンス「IMPACT SHIFT(インパクトシフト)」を開催することを目的にしている団体です。

次回は2025年3月1日、2日に2000人規模を目標に、東京コンベンションホール(京橋駅直結)で開催予定です。「インパクト」というもの自体に関心や理解を深めていくためにカンファレンスを開催しています。

業界の好事例をつくることが重要なフェーズから、これからは関心層と実践者の数をどう増やすのか”も”重要な論点になってきています。

この記事を通して、1人でも多くの方々に「インパクト」という世界が面白いと思っていただけたら嬉しいですし、その入口でもあるインパクトシフトにプレ登録もして頂けたら光栄です。

まだまだやるべきことはたくさんありますが、このような取り組みを通じて、社会課題解決と経済活動の追求を実現した好事例を増やすこと、そこに焦点をより当てることで、持続可能な社会の実現に貢献していきたいです。

(取材・執筆=目次ほたる(@kosyo0821)/編集=いしかわゆき(@milkprincess17)/(撮影=深谷亮介(@nrmshr))

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