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「もう洋服は着たくない」“ほぼ毎日着物”の人・天野さとみが着物で生きようと決めた理由

Instagramを中心に着物の魅力やコーディネートについて発信したり、着物に関するイベントを開催したりと、「ほぼ毎日着物の人」として活動している天野さとみさん。

ある事故をきっかけに「社会課題に加担したくない」と考え、社会や環境への負荷を減らすライフスタイルを研究しはじめたといいます。

そんなさとみさんは、無理なく環境配慮を続けるには、「正しい他力本願」が大事だと言います。

今回はそんなさとみさんに、着物がエシカルである理由を聞いてみました。

天野さとみ(あまの・さとみ)
ファッション産業への問題意識をきっかけに、流行を追い、新しい服を買っては捨てるというサイクルに疑問を持ち、その解決策として「毎日着る服を着物にする」というアイデアを思いつく。現在は、「ほぼ毎日着物の人」としてInstagramを中心に、着物やSDGsについて発信中。フォロワーは5万人を超える。また、SNSでの発信だけでなく、着物に関するイベントの開催やオリジナルアイテムの販売なども行っている。

無理なく環境配慮を続けるには、「正しい他力本願」が大事

ーーエシカルなライフスタイルを実践するさとみさんですが、心地よい生活と課題解決を両立するために、どんなことを大切にしていますか?

さとみさん:
正しく他力本願すること、ですかね。

ーー正しく他力本願…?

さとみさん:
私は普段からできるだけ環境負荷を減らす生活を心がけていますが、もちろんできないこともあります。

例えば、我が家には保護猫が2匹いるので、どうしてもにおいの漏れないビニール袋やペットシーツが手放せません。

排気ガスを出す車も、家族を送迎するためには欠かせないものの1つです。でも、それを我慢しなくてもいいと思うんですよ。

ーーどういうことですか?

さとみさん:
人によってできることは違うはずだから、できないことはできる人に任せて、私は私にできることを淡々とする。私にはできないアクションでも、世の中にはできる人がいて、逆も然りだと思うんです。

ーーなるほど。みんなで負担を分け合うイメージなんですね!

さとみさん:
そうそう! だから、やらないよりはマシの精神で「マシ」を日々少しずつ積み重ねていくことを心がけています。みんなでやればきっと結構な量になるはずじゃないですか。

「マシの積み重ね」にこそ、未来を変える力がある。そう信じていますね。

もう洋服を着たくない。社会課題への疑問からはじまった着物生活

ーーそんなさとみさんが、着物生活をはじめたきっかけを教えてください!

さとみさん:
正直、「もう洋服を着たくない」と思ったことがきっかけですね…。

ーーどうしてですか?

さとみさん:
以前、NPO団体を通じて寄付をして、バングラデシュの子どもの支援をしていたことがあったんです。

私が支援を始めてからほどなくして起こったのが、「ラナプラザ崩落事故」でした。大きなビルが崩落している映像を見て、衝撃を受けてしまって…。

「どうしてこんなことが起きてしまったのだろうか」と思い、自分なりに事故について調べていくうちに、ファッション産業が抱える問題を初めて知ったんですよ。

※「ラナプラザ崩落事故」とは
2013年4月24日、バングラデシュの首都ダッカ近郊で起きた悲惨な産業災害。縫製工場が入居する8階建ての商業ビル「ラナ・プラザ」が崩壊し、1,100人以上が犠牲となった。建物の構造上の問題や安全管理の不備が指摘され、ファストファッション産業の労働環境や製品の真のコストについて世界的な議論を巻き起こした。この事故は現代のファッション産業が抱える課題を浮き彫りにした象徴的な出来事となった。


ーーそんなことが…。

さとみさん:
知ってしまったら、知る前には戻れない。必要以上に安価に売られている服を見るたびに、この服を作った人はどんな労働環境で、どんな思いで縫っているのか考えてしまい、気持ちよく着ることができなくなってしまったんです。

もう、誰かの犠牲の上に成り立つ服は買いたくない。でも、フェアトレードのお洋服には着たいと思えるものがなかったし、あったとしても、高価で買えるだけの金銭的余裕もない。

いっそ、ジョブズのように毎日同じ服を着て過ごそうかとも思ったのですが、おしゃれを楽しみたいという思いも諦められなかったんです。

ーーおしゃれと課題への向き合い方を両立するのが難しかったんですね。

さとみさん:
モヤモヤしていたときに、神社の骨董市の店先で出会ったのが、古着の着物でした。

着物は長く着られて、しかも最後は土に還すこともできます。「もしかして、私の理想にぴったりかも!」とひらめきました。

ーーそれが着物との出会いだったんですね!

さとみさん:
着物は「最強のエシカルファッション」なんですよ!その理由は大きくわけて5つ。

1つ目は、上質な素材を使っているから、丈夫で長持ちすること。親子孫の3代で着られるものもあるほどです。

2つ目は、飽きたり汚れたりしたら、色やサイズを変えてリフレッシュできること。ハサミを入れずにリペアができることもあります。

3つ目は、リメイクの文化が根付いていること。座布団のカバーやふきん、赤ちゃんのおむつ、お手玉などの子供のおもちゃになり、布として使えなくなったら燃やして灰にして肥料に。そして、最後はすべて土に還すことができます。

4つ目は、直線的な作りなので、資源を余すところなく使えること。着物を分解すると、また元の反物の形に戻せるほど、無駄のない作りなんです。

最後に5つ目は、洋服よりもサプライチェーンがシンプルで透明性が高いこと。この着物は誰が作ったものなのかを知りたいとき、反物を作った人まで遡ることができます。

着物の価値と品質を示す重要な証明書である「証紙」。
証紙をたどれば、着物の作り手について知ることができる。

着物生活もエコも、楽しく習慣化するライフスタイルの作り方

ーー毎日着物生活を続けるのは大変なイメージがありますが、さとみさんはどうやって続けているんですか?

さとみさん:
たしかに、洋服よりは着るのに時間がかかるのは事実。でも、工夫をすれば日常に取り入れることは案外簡単です。

だって、昔の人は毎日当たり前に着物で生活していたんですよ!ということは、 本来は高いお金や長い時間をかけてやるものではないはず。

ーー言われてみれば、そうかも…!

さとみさん:
大事なのは、無理をしないことです。そのために、なるべく着付けに関わる道具を減らして、無理せず着物を着つづけるための工夫をしてきました。

実は着付け教室にも通ったことがなくて、図書館で本を借りたり、YouTubeの動画で研究したり。

そもそも私は自分がダメ人間であることを自覚しているので、最初から諦めていたんですよね(笑)。

人って、そもそも楽しいことしかできない生き物だと思うんです。そこに逆らうことはできないので、着物もエコも自分が楽しく無理せず続けられるよう、今も研究しています。

ーー「着物=大変なもの」というイメージがありましたが、工夫次第で解決できるものなんですね!

さとみさん:
そうなんです。ほかにも、環境や社会に配慮したライフスタイルを無理なく取り入れています。

例えば、マイボトルとマイバッグを使うのはもちろんのこと、洗濯のときはマイクロプラスチックの流出を防ぐ洗濯ネットを使ったり、洗剤は完全に生分解されるものをバルクショップ(バラ売り、量り売りのお店)で購入して使っています。

愛用しているというマイタンブラー
GUPPYFRIEND(グッピーフレンド)の「Washing Bag(ウォッシングバッグ)」。
フィルター付きで、マイクロプラスチックの流出を防ぐことができる。

食事をするときも、有機農法や自然農法に取り組まれている生産者さんやお店から購入するようにしてきました。

食品の保存には、みつろうラップやシリコンバッグ、ガラス製の保存容器を使っています。ストイックに実践している感覚は全然なくて、「生活のなかでどれだけプラごみを減らせるかゲーム」をしている感覚です。

瓶に入れて保存しているヴィーガンのお菓子。
普段から書籍を通じて、環境課題やSDGsに関する情報を取り入れている。

世界を変えたければ、自分のまわりから。ほぼ毎日着物生活の人が、発信を続ける理由

ーーさとみさんが、環境課題やSDGsについて発信するときに心がけていることはありますか?

さとみさん:
大事にしているのは、発信を見た人にとって私の教えで行動や考え方が変わったというより、「自分の意志で行動が変わったんだ」と思えるように発信することですね。

ああしろこうしろと指示に従うのは納得がいかないと思うので、自然と自分で行動変容を選んだのだと思ってもらえるように心がけています。

あとは、SNS上だけでなくリアルな場も大事にしてきました。人類が現在直面している問題は「想像力の欠如」によるものがほとんどだと思うから、未来について一歩立ち止まって考えるきっかけとなる場を作っていきたいんです。

ーーそんなさとみさんの姿勢に勇気をもらっている人がたくさんいると思います。

さとみさん:
私1人の行動は地球規模で見たら、ほとんど無に等しいかもしれません。それでも、冒頭でもお話したとおり、正しく他力本願しながら、みんなでできることをカバーし合えば、必ず積み重なっていくはず。

「 If you want to change the world, go home and love your family.
(世界を変えたければ自分のまわりから)」

これは、私の行動指針になっているマザーテレサの言葉です。自分のまわりから少しずつ変えていくために、これからも着物を通じて人と地球のより良い在り方について模索していきたいと思っています。

(取材・執筆=目次ほたる(@kosyo0821)/編集=いしかわゆき(@milkprincess17)/(撮影=深谷亮介(@nrmshr))

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