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信号

イルミネーションを見る度に、2年前のことを思い出す。ある男と桜木町で食事をした後、イルミネーションを見よう、と男はわたしを誘った。赤レンガに行けば明らかに終電を逃す。歩き出した男を追いかけるようにして歩調を合わせ、ドキドキしながら赤レンガへ向かった。

男はわたしが普段なら手を出さない種類のポテチのような男で、でもその頃はその少年ぽく粗野なところが妙に魅力的に見えた。赤レンガで普段は掛けない眼鏡を掛けて、キラキラした目で光を見上げるその横顔も。明らかに恋に落ちていた。恋は突然落ちるもの、としっかり体感するのは久しぶりだった。

そろそろ行かないと、と言うわたしをニヤニヤしながら見つめて、帰るんですか?と男は聴く。まだ間に合うかも知れないよ、あなたの終電の方が少し早いんだから、そう言ってわたしは踵を返す。今度は男がわたしを追いかけるようにして歩を進めた。帰るんですか?と再び男はわたしに問う。

わたしは振り返り、急げばまだ間に合うかも知れない、と繰り返す。男は再び、本当に帰るんですか?とわたしに問い、間に合わないですよ、と言い添える。わたしは、分からない、とその二つに対して答え、男の目を見た。わたしは迷っていた。何故なら男は既婚者だったから。

とりあえず駅に向かおう、終電に間に合えばそれは神の意思だ、とわたしは返す。揺らぎそうなわたしのこころは既に読まれており、男は口の端を上げながら、すくい上げるような目でわたしを見て、帰りたいんですか?と聴いた。

目の端に点滅する緑の光が見えた。

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