DMVアーティストの伝統性
Rolling Stone JapanのWeb版に、ヴァージニアのシンガーのTommy Richmanについてのコラムを寄稿しました。
シングル「MILLION DOLLAR BABY」がヒットしたTommy Richmanの音楽を、SoundCloudラップとヴァージニアの地域性から考えるような内容です。
記事でも触れていますが、ヴァージニアは隣接するメリーランドとワシントンDCとあわせて「DMVエリア」と呼ばれています。DMV出身のアーティストとしてはTommy RichmanやBrent Faiyazのほか、Timbaland、Missy Elliott、The Neptunes、Clipseなどが挙げられます。
プロデューサーのThe NeptunesやTimbalandは奇怪なアイデアを織り交ぜた怪ビートで人気を集め、彼らと共に活動していたClipseやMissy Elliottもエッジーなサウンドに乗るラッパーのイメージが定着しています。しかし、そういった先鋭的な試みに挑む一方で、それと同時にかなり伝統性も重要視しているように思います。
例えばThe NeptunesがプロデュースしたClipseの代表曲「Grindin'」は、ウワモノではなく剥き出しのドラムのみで聴かせる1980年代ヒップホップ的なビートです。こういった1980年代ヒップホップっぽい要素はMissy Ellliottも取り入れており、2005年にリリースしたシングル「We Run This」はThe Sugarhill Gangの「Apache」をわかりやすくサンプリングしています。Missy ElliottはそのほかにもRun-DMCやSlick Rickなどもサンプリングしており、かなりヒップホップ黎明期への敬意を示し続けてきました。
また、Missy Elliottの場合はフックアップしてきたアーティストも、先鋭的なスタイルではなく伝統性を強く意識させるようなスタイルの持ち主が目立ちます。繊細なソウルを聴かせるTweetや、現在はLady Wray名義でヴィンテージソウルに挑むNicoleは、元々Missy ElliottのレーベルのThe Goldmind Inc.から登場したアーティストです。デビューシングル「Need U Bad」でMissy Elliottをプロデュースに迎えた、Jazmine Sullivanもかなり正統派のソウルシンガーでした。近い例としてはKeyshia ColeによるThe Notorious B.I.G.オマージュの名曲「Let It Go」もMissy Elliottプロデュースで、エッジーな音作りというよりは過去の遺産を継承するようなものでした。
The NeptunesがフックアップしたRobin Thickeもまた、伝統的なソウルのフィーリングを持ったアーティストでした。Clipseにしてもミックステープでは東海岸マナーのサンプリングベースのビートを好んで使用。Pusha Tのソロ作でもそのブーンバップ趣味はたびたび覗かせてきました。The NeptunesとTimbaland、Missy Elliottがフックアップしたアーティストの全てがDMV出身というわけではありませんが、彼らがフックアップしたアーティストの方向性がオーセンティック寄りなことはかなり彼らの趣向が現れているように思います。
こういったメインストリーム寄りの華やかなアーティスト以外では、ブーンバップ方面で活躍するNottzやSkillz、OddiseeなどもDMV出身者です。近年のアーティストならDRAMやMcKinley Dixon、Cordaeなども挙げられます。トラップ路線を突き詰めるShy GlizzyやFat Trelのようなラッパーもいますが、近年のアーティストでも概ねソウルフルなフィーリングの持ち主が目立ちます。
先人が残してきたものを継承し、現代のフィルターを通して表現する。DMVのアーティストには伝統性が宿っており、そしてThe NeptunesやTimbalandなどの先鋭的な部分も後進が継承して新しい伝統の一部となる。これまであまり地域性を意識される機会が多くなかったDMVですが、考えてみると非常に面白い地域です。Tommy Richmanのブレイクがシーンにどんな影響を与えていくのか、楽しみにしながら追っていきたいと思います。
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