再び盛り上がりつつあるジャーキンとハイフィ
「ジャーキン」という西海岸発のヒップホップのサブジャンルがあります。これはベイ発のサブジャンル「ハイフィ」が南下したもので、どちらもミニマルなシンセ使いが特徴のパーティミュージックです。詳しくは以前こちらで書きました。
2000年代前半から2010年前後にかけて局地的に盛り上がったジャーキンやハイフィですが、近年リバイバルの波が来ているように思います。2016年にはMistah F.A.B.がMac Dreのハイフィ名曲「Feelin' Myself」の続編的なシングル「Still Feelin' It」をリリース。リミックスではSnoop DoggやKeak Da Sneakなどをフィーチャーし、Mims「This Is Why I'm Hot」のようにハイフィ名曲を随所でサンプリングしたお祭り仕様に仕上げています。Mistah F.A.B.はその後も2018年にアートワークからしてその時代にオマージュを捧げたアルバム「Year 2006」でハイフィ色を強調。2020年にも「I Miss Hyphy」をリリースし、当時から活動するベテランの一人としてハイフィに挑み続けました。
新進ラッパーのAmbjaayが2019年に発表したシングル「Uno」も、ジャーキン的なスカスカなビートでした。同様のスタイルはBluefaceが同年リリースしたアルバム「Find a Beat」にも収録されています。2019年にはベイのプロデューサーのMikos Da Gawdもハイフィに挑んでおり、Mistah F.A.B.のようなベテランだけではないハイフィやジャーキンの流れがじわじわと来ていることが感じられました。
そのほかG-Eazyも2019年に発表したEP「B-Sides」収録の「Too Loud」などでハイフィ的な路線にたびたび挑戦。2021年のアルバム「These Things Happen Too」収録の「Now & Later」ではE-40本人も交えてハイフィ名曲「Yay Area」をサンプリングし、トレードマークのアドリブ「イー!」のルーツを示していました。また、2021年はSaweetieもシングル「Fast (Motion)」でハイフィ名曲のKafani「Fast (Like a Nascar)」をサンプリングしています。これらは現在第一線で活躍している西海岸のラッパーが、ハイフィやジャーキンに親しんだ世代であることが伺える例だと思います。
そして、2021年にはKendrick Lamar一派のBaby Keemがアルバム「The Melodic Blue」をリリース。「pink panties」のようなジャーキンを新たな感覚で再解釈したような曲を披露しました。
今年に入ってからも、ジャーキンを代表する西海岸のラップデュオのNew Boyzが再結成して新曲「You're A Jerk 2」をリリース。ハイフィ界のベテラン、Droop-EとStresmaticもタッグ作「4005 Episode II: Matic's Memory Bank」をリリースし、2022年仕様の進化したハイフィを提示しました。
そして、先日Kendrick Lamarがリリースしたアルバム「Mr. Morale & The Big Steppers」にもジャーキンやハイフィとの共通点を感じさせる曲が収録されていました。そういったビートやラップスタイルの面に着目した同作のレビューを、WebメディアのTURNの記事「ケンドリック・ラマーは混迷を極めた世界を救うのか? 最新作『Mr. Morale & The Big Steppers』 クロス・レヴュー」で書きました。皆さま是非。
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