Charlotte Day Wilson「Cyan Blue」全曲解説
カナダのシンガーのCharlotte Day Wilsonのアルバム、「Cyan Blue」の国内盤ライナーノーツを書きました。国内盤CDに封入されています。
DrakeやBADBADNOTGOODなどCharlotte Day Wilsonと同じカナダのトロント出身のアーティストを例に出しつつ、その地域性を考えるような内容です。
2021年にリリースされた前作「ALPHA」では、フォーキーな要素も備えたオルタナティヴR&Bとネオソウルの中間のようなスタイルを聴かせていました。前作についてはにんじゃりGang Bangと、今年発売された書籍「オルタナティヴR&Bディスクガイド」でレビューを書いています。
今作ではフォーキーな要素はやや後退し、セルフプロデュースが中心だった前作とは異なりプロデューサーと組んで制作されています。そのためか前作よりも解放感のあるサウンドが展開されていますが、ヴォーカルの加工の面白さなど本来の魅力は失われたわけではありません。初めてCharlotte Day Wilsonを聴く方も、これまでのファンの方も楽しめると思います。
ライナーノーツでは曲単位では全曲に触れていないので、この記事では全曲解説します。
1. My Way
Jack RoとLeon Thomasがプロデューサーとして参加。
フォーキーなギターと加工を施したコーラスを用いた、Charlotte Day Wilsonらしい曲です。ゴスペルっぽいニュアンスもあります。
2. Money
ピッチを調整したコーラスが目立つ曲。
ドラムやベースなどの質感は生っぽいですが、どこかモダンな印象に仕上がっています。以前インタビューしたKingo Hallaが「トロントのシーンのパイオニア」として挙げていたプロデューサーのRiver Tiberも関与。
3. Dovetail
ファンキーなギターを鳴らすオーガニックなソウル。
方向性的にはレトロソウルと通じるようなノリもありますが、ヴォーカルはやはり異質な響きです。ギターかサックスを思いっきり加工したような音も奇妙に鳴っています。
4. Forever (feat. Snoh Aalegra)
美しいピアノが光るゴスペル風味の曲。
客演のSnoh Aalegraが正当派のソウルフルなシンガーなだけに、Charlotte Day Wilsonの声の処理の面白さが際立っています。チップマンク・ソウルも使用。
5. Do U Still
骨太ドラムを使ったヒップホップ的に聴ける曲。
多重録音コーラスを巧みに用いた、一人ヴォーカルグループ状態が楽しめる曲です。男声の呟きも印象的。
6. New Day
ピアノをメインにした音で歌ったドラムレスの曲。
しかし、ディレイや多重録音などヴォーカル面はかなり凝っており、ただシンプルな弾き語り的な曲ではありません。Charlotte Day Wilsonの作家性が強く出ています。
7. Last Call
オルタナティヴR&B系の曲。
ハイハットの刻みの早さに少しトラップっぽいニュアンスもあります。やや短めの曲ですが、インタールード的ではなく一曲として楽しめます。
8. Canopy
ビターな味わいのギターが目立つ曲。
2ndヴァースからスナップ音やちょっとコミカルな響きのギターなどが入ってきますが、最後になってピアノのみのシンプルなものに変わります。シンガーのAmy Allenもフィーチャー。
名曲のカヴァー。
ピアノにギターで少し味付けをしたのみのシンプルなサウンドながら、多重録音コーラスやピッチ調整も使った歌を聴かせるCharlotte Day Wilsonらしい仕上がりです。終始喋り声が入っていますが、ラストの瞬間はそれでピースフルな気持ちになります。
10. Kiss & Tell
浮遊感のあるオルタナティヴR&B。
(キック以外の)一つ一つの音の質感は生っぽいですが、レトロソウルやネオソウルとは違う印象に仕上がっています。後半の多重録音コーラスが圧巻。
11. I Don't Love You
早回しの声も取り入れた曲。
ピアノやドラムだけならローファイなネオソウルっぽい味わいですが、重厚なシンセや声ネタっぽく入ってくる声がそれとは異なる味わいをプラスしています。奇妙でいて美しい曲。
12. Cyan Blue
ピアノ中心の音数を絞って歌った曲。
こういった曲でも、ピッチ調整や多重録音などヴォーカル面でのらしさは全開です。シンプルなようでやはり凝っています。
13. Walk With Me
ポジティヴなムードの曲。
SE的な音使いや加工コーラスなども印象的な中、骨太なドラムで巧みに曲を引き締めています。「again」と繰り替えす箇所の力強さも魅力的。
14. Life After
国内盤ボーナストラック。
歌声の加工は相変わらずですが、サウンド的にはギター中心で聴かせる比較的シンプルな作りです。らしさを出しつつも、アルバムのほかの曲とは少し違う味わいもあります。
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